2010/6/28
昨年に続き、夏期休暇を利用してSERに参加してきましたが、あっという間に4日間のプログラムも終了しました。土曜日は、シアトルのマラソン大会(?)が開催されていました。心地よい風が吹き抜ける中、完走するランナーを見送るのは、こちらまで健康になった気分です。ただ、走り終わった後でアメリカンサイズの食べ物を楽しそうに食べている人たちをみると、少し複雑ですが…。
さて、SER最終日も、朝から多くのプログラムを楽しんできました。最後のプログラムはEpidemiologyのeditorsが主催するSymposiaに出席しましたが、非常に興味深いやり取りがありました。Session ChairのDr. Jay Kaufmanが、コメントとしてpost-publication peer reviewによりエビデンスを高めることの必要性に言及したのですが、それに補足してDr. Charles Pooleがフロアから述べたコメントが非常に「痛快」でした。Dr. Pooleと話をしていると、私はいつも(色々な意味で)T田先生を連想してしまうのですが、いつも鋭い含蓄のあるコメントを言ってくれる方です。Dr. Pooleによると、「私はいつもジャーナルにレターを書くときに、著者に対して問題点を丁寧かつ紳士的に指摘するように努力しているのに、多くの場合、著者は私の質問に対する答えをはぐらかしてきちんとした回答をしてくれない。出版された論文に対する批判的な吟味を行うことは非常に重要なプロセスであるはずなのに非常に残念だ。今後は、こういう慣習は必ず改めなければいけない!私はどうすればその慣習を改めさせることができるのか分からない。でも、とても重要なことだよ。」という論点を突いた茶目っ気(?)のあるコメントでした。前日に、この問題点に関してDr. Pooleと個人的に話をしていて、彼の云わんとしたことの「実情」を少し知っていただけに更に興味深いコメントだったのですが、この論点をすかさず皆の前で的確に述べることができるのも、Dr. Pooleの知識の深さ、経験、そして何よりも彼の人格(?)によるところが大きいのでしょうか。(Dr. KaufmanとDr. Pooleの絶妙な兼ね合いに依るところもあると思いますが…。)
さて、今回のSERを振り返って、Dr. Stephen R Coleの言葉を借りると、2009年のSERは、MSMにおける一つの仮定として重要なpositivityに関連して”positivity meeting”として総括できるのに対して、2010年のSERは”selection bias meeting”と総括できるらしいです。確かに、縦断研究における対象者の選択の問題や欠損値の問題は、今後の疫学方法論を語る上で重要な論点の一つと言えるでしょう。
2011年のSER年次総会はカナダ第二の都市モントリオールで開催される予定です。参加できるかどうかは分かりませんが、おそらく来年も興味深い論題が数多く扱われると思います。日本からの出席者は例年非常に少ないですが、機会があれば皆様も是非…。
ES
2010/6/26
SERも三日目となりました。皆様、いかがお過ごしでしょうか。シアトルは21時過ぎでも十分に明るく、時間の感覚がおかしくなりそうです。三日目の午前は、8時30分より、Student Prize Winnerによる発表がありました。タイトルは”Pre-term birth risk in black immigrant enclaves: African-, Caribbean-, and US-born non Hispanic black populations in New York City”と題して、Dr. Susan Masonが発表を行いました。昨年の受賞研究は感度分析を行ったものでしたが、今年の受賞研究は、GISを用いてProximity Weighted Ethnic Densityにより曝露変数を定義したという特徴が見られました。今後の疫学研究において、GISの重要性がますます高まることを予感させる発表でした。続いて、特別講演としてHSPHのDr. Lisa Berkmanを招聘し、”To observe or to intervene: How do we know when the time is right to intervene?”と題したレクチャーが行われました。Global Healthを含めた非常に大局的な話から、職場での介入研究結果に至るまで、多岐にわたる内容の発表でした。発表の冒頭では、これまでCollaborateしてきた研究者の名前が何人か挙げられましたが、当然の如くDr. Ichiro Kawachi, Dr. SV Subramanianのお二人も名前が挙がりました。
10時30分からは、Spotlight Session 3としてAging and Longitudinal Methodsに出席しました。特に縦断研究では避けて通れない欠損値の問題に関して、かなり突っ込んだ議論や方法論に関する発表がなされていました。
1時30分からはCausal Methods in Health Disparities Epidemiologyと題してDr. Jay S KaufmanがChairをしているセッションに参加しました。DAGやcounterfactual outcomeを交えた綿密な発表が続きましたが、それに続いて行われたDiscussantのDr. Tyler J VanderWeeleのサマリーと問題提起は圧巻でした…。ポイントを的確に指摘し、議論の必要な方向性を立て続けに取り上げていました。ただ、結局、時間切れで議論の時間が無くなってしまったのは残念でしたが…。その後は、3時30分より、Spotlight Session 4として、Causal Methods in Practiceに参加しました。MSMではなく、g-formulaの必要性を扱った発表が続いており、今後は、MSMだけでなくg-formulaも重要なキーワードの一つになるのかもしれません。
夕方には、”Multilevel models from two distinctive definitions of aggregated variables: self-inclusion and self-exclusion procedures”と題して、3つ目のポスター発表を行う予定です。議論により、多くのフィードバックがもらえることを期待しています。それでは、現地レポート第三回もお楽しみに…。(時間切れで終わるかもしれませんが…。)
ES
昨年もご好評をいただきました(?)SER現地レポートです。昨年のアナハイムに引き続き、今年はシアトルからお送りしています。シアトルといえば、疫学者として忘れてはならないのはワシントン大学ですね。疫学・公衆衛生領域において世界的にも有名な大学の一つです。また、近くにはFred Hutchinson Cancer Research Centerもあり、癌研究で世界的に有名ですね。ただ、そういったことは置いといて、純粋にシアトルという街を語る上で欠かせないのは、やはり、マリナーズ、そしてスターバックス発祥の地ということでしょうか。街中でもマリナーズ51番のIchiroのユニホームを着た人を少なからず目にします。やはり、今やチームの顔、いやMLBの顔とも言えるのかもしれません。特にこの期間は、マリーナーズvs.カブス戦がホームで開催されることもあり、カブスのユニホーム姿の人もちらほら目にします。中には、カブスの1番のユニホームの人も…。そう、Fukudomeですね。最近は控えが多いですが…。また、スターバックス一号店では、連日多くの観光客が訪れて写真を撮っています。シアトルには、スターバックス以外にもコーヒー専門店が数多く見られます。みんなコーヒーが大好きなのでしょうね。コーヒーの健康影響を評価する上では、まさに最適の街かもしれません。その他にも、シアトルにはボーイングの工場があり、工場ツアーでは現在注目を集めている787をはじめ、数多くの機体が流れ作業で作られている場所を目の当たりにすることができます。ということは、産業保健の現場としても興味深い街ということでしょうか。もちろん、騒音等による環境疫学のフィールドとしても重要でしょうか。このような街でSERが開催されるのは、まさに疫学者にとって願ったりかなったりかもしれません。
さて、話を本題に戻して、6月23日水曜日の夕方から始まった第43回SER年次総会も、初日から活発な議論がなされています。SERは、Society for Epidemiologic Researchの略で、American Journal of Epidemiologyの母体となっている学会です。毎年、北米(主に米国)の各地で開催されており、近年では、疫学方法論、因果推論のシンポジウムや発表が数多く見られます。Past-PresidentのDr. Maclureも開会の挨拶で述べていたように、まさに「疫学方法論の学会」と言っても過言ではないでしょう。疫学関連で最も大きな学会の一つと言えますが、それだけに数多くのビッグネームに会うこともできます。また、近年では、社会疫学の論題も増えており、多くの発表がなされています。
初日のPoster Sessionでは、”Does low workplace social capital have detrimental effect on workers’ health?”、”Workplace social capital and smoking among Japanese private sector employees”と題して二つのポスター発表をしました。Poster Sessionと並行して、Welcome Receptionも開催され、それぞれネットワーキングを楽しんでいる様子です。日本からの出席者はほとんどいませんが、一年前にお会いした海外の方々に顔を覚えて頂いていると、やはり少し嬉しくなりますね。逆に、こちらが覚えていないと少し焦りますが…。
二日目は、8時30分よりSER PresidentのDr. MurrayによるPresidential AddressとKeynote Lectureが行われ、これまでの疫学者としての経緯を興味深く聞くことができました。昨年のPresidential AddressのDr. Maclureの話がかなりいい内容でしたので、Dr. Murrayもプレッシャーに感じていたようです。続いて、10時30分からはSpotlight Session 1があり、Methods for Estimating Marginal Causal Effectsと題するセッションに参加しました。いずれの発表も、参加者が既に因果推論に関するある程度の(多くの?)知識を有していることが前提のような感じで、非常にスピーディーに発表が進んでいきます。今年のSERは昨年にも増して、更にMSM (Marginal Structural Models) などの因果モデルに関する発表が多くなっている印象を受けます。因果推論関連のセッションであっても無くても、参加者の発表やコメントの中に、普通にCounterfacrualやDAGなどの用語がポンポン出てくるあたりも、SERならではといえるかもしれません。
午後は、Unnatural selectionに関するSymposia 1に次いで、Quasi-experimental designsに関するSpotlight Session 2に出席する予定です。その後、夜までPoster Session 2がありますが、いずれも興味深い発表が続きますので、色々と学んでみたいと思います。それでは、現地レポート第二回もお楽しみに・・・。
ES