研究業績

2012/7/4

本邦における死亡リスクの地域間格差に関する論文出版のお知らせ

健康格差は、全世界的に大きな学術的・社会的な注目を集めている論点です。この度、本邦における死亡リスクの地域間格差について詳細に検証した論文がPLoS Oneに出版されました。本研究は、ハーバード大学、広島大学の研究者らとの共同研究です。

我々の研究グループが最近発表した論文において、本邦では、社会的にも地理的にも健康格差が広がっていることが示唆されました。この研究結果を踏まえ、本研究では、地域間格差を生じさせている要因について、各地域の構成要素による影響(compositional effect)によるものなのか、あるいは、各地域の属性や特徴による影響(contextual effect)によるものなのかを、マルチレベル解析により検討しました。これらの影響の相対的な重要性を検証した結果、各都道府県で両影響の程度は大きく異なることが示唆されました。

本研究結果は、本邦で拡大しつつある地域間格差の要因について、より明確な示唆を与えることが期待されます。

Suzuki E, Kashima S, Kawachi I, Subramanian SV.
Geographic inequalities in all-cause mortality in Japan: compositional or contextual?
PLoS One. 2012;7(6):e39876. (doi:10.1371/journal.pone.0039876)
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2012/6/7

職場のソーシャル・キャピタルと高血圧発症リスクに関する論文出版のお知らせ

職場におけるソーシャル・キャピタルが、労働者の高血圧発症リスクにどのような影響を及ぼすかを検証した論文が、Journal of Hypertensionに出版されました。本研究は、フィンランド、米国、ポーランドの研究者らとの共同研究であり、フィンランドの公務員60922人を対象としたコホート研究です。男性では、職場のソーシャル・キャピタルが低いと高血圧発症リスクが高まることが示唆され、最も低い群は、最も高い群に比して、高血圧発症率が約40%高まることが示されました。一方、女性では明確な関連は認められませんでした。今後も、職場のソーシャル・キャピタルに関する包括的な研究が期待されます。

Oksanen T, Kawachi I, Jokela M, Kouvonen A, Suzuki E, Takao S, Virtanen M, Pentti J, Vahtera J, Kivimäki M.
Workplace social capital and risk of chronic and severe hypertension: a cohort study.
J Hypertens. 2012; 30(6):1129-1136.
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2012/6/6

マダガスカルにおけるヘルスセンターまでの近接性と新生児・乳児死亡率に関する論文出版のお知らせ

マダガスカルにおけるヘルスセンターまでの近接性と新生児・乳児死亡率に関する論文がPLoS Oneに出版されました。本研究は、広島大学、マダガスカル政府、JICAマダガスカル、ハーバード大学のスタッフおよび研究者らとの共同研究です。

開発途上国において、ヘルスセンターへの近接性は乳児の健康と影響があると報告されていますが、データ整備の関係でまだその評価は多くの国で不足しています。本研究は、マダガスカル政府が整備したヘルスセンターの位置情報を利用し、新生児、乳児死亡とヘルスセンターまでの関係をGISを活用しマダガスカル国土全土で評価しました。結果、ヘルスセンターより遠方に居住する対象者ほど、新生児死亡のリスクの増加が示唆されました。

Kashima S, Suzuki E, Okayasu T, Jean Louis R, Eboshida A, Subramanian SV.
Association between proximity to a health center and early childhood mortality in Madagascar.
PLoS One. 2012;7(6):e38370. (doi:10.1371/journal.pone.0038370)
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2012/6/4

大阪府寝屋川市における揮発性有機化合物質曝露と健康影響に関する論文出版のお知らせ

2004年8月に大阪府寝屋川市に廃プラスチック処理工場が建設され、その後の稼動に伴って、周辺住民が、悪臭、眼や喉の痛みなどの健康被害を訴えています。今回、健康調査を行い、工場から居住地域までの距離と症状の関連を検討した結果について、Journal of Occupational Healthに学術論文が出版されました。本研究は、本学大学院環境生命科学研究科、東京大学大学院新領域創成科学研究科、広島大学大学院医歯薬保健学研究院の研究者らとの共同研究です。

調査の結果、工場に近い地域に居住している住民ほど、咽頭・呼吸器・眼・皮膚症状などの症状を保有していました。様々な欠点はありますが、本知見は、大気中の揮発性有機化合物質曝露と皮膚粘膜刺激症状・呼吸器症状との関連を示唆しています。

Yorifuji T, Noguchi M, Tsuda T, Suzuki E, Takao S, Kashima S, Yanagisawa Y.
Does open-air exposure to volatile organic compounds near a plastic recycling factory cause health effects?
J Occup Health. 2012;54(2):79-87.
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2012/6/4

長時間労働とメタボリックシンドロームに関する論文出版のお知らせ

長時間労働による健康影響に関して、国内外で多くの研究が実施されてきましたが、長時間労働とメタボリックシンドロームの関連について検証した研究は皆無でした。この度、この点を調査した学術論文がBMC Public Healthに出版されました。

日本人男性労働者933人を対象とした横断研究を実施しました。多変量ロジスティック回帰モデルによる解析の結果、1日の労働時間7-8時間に比して、10時間より長い場合には、メタボリックシンドロームのオッズ比が二倍以上になることが示唆されました。この傾向は、40歳以上の群でより顕著に認められましたが、40歳未満の群では明らかな関連は見られませんでした。本研究結果は、メタボリックシンドロームのリスクを増加させる労働時間のトリガーレベルが、10時間/日であることを示唆していると考えられます。

Kobayashi T, Suzuki E, Takao S, Doi H.
Long working hours and metabolic syndrome among Japanese men: a cross-sectional study.
BMC Public Health. 2012;12:395. (doi:10.1186/1471-2458-12-395).
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2012/5/21

Age-Period-Cohort分析の因果理論的背景に関するコメンタリー出版のお知らせ

時の流れとともに、ヒトの健康アウトカムは様々に変化します。このような健康アウトカムの変遷を検証するため、これまで約80年にわたってage-period-cohort (APC) analysisが用いられてきました。この度、時間の概念を整理して、APC analysisに関する理論的な背景を論じた招待コメンタリーがSocial Science & Medicineに出版されました。

本コメンタリーでは、age, period, cohortという時間の三因子を、構成要素(composition)と文脈(context)で区別すること、及び、その概念化によりAPC analysisにおける仮想介入に重要な示唆が得られることを論じています。加えて、時間の操作可能性について言及しています。最後に、文脈の主要な三次元として、relational dimension, spacial dimension, temporal dimensionという概念モデルを提唱し、マルチレベルでの因果律を論じる際には、文脈の三次元を念頭に置くことが重要であることを提言しました。

Eco-epidemiologyという因果律の新たな時代において、マルチレベルでの因果律の重要性が指摘されています。本コメンタリーが、時間という概念の重要性を再認識するうえで役立つことが期待されます。

Suzuki E.
Time changes, so do people.
Soc Sci Med. 2012 (in press) (doi: 10.1016/j.socscimed.2012.03.036)

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2012/5/15

水俣における動脈硬化性疾患死亡や高血圧死亡に関する論文出版のお知らせ

最近の研究は、メチル水銀曝露の心筋梗塞や高血圧への影響を示唆していますが、今回我々は高濃度メチル水銀汚染が起きた水俣で、動脈硬化性疾患死亡や高血圧死亡が増加していたかを検証しました。結果として、動脈硬化性疾患死亡は増加していませんでしたが、高血圧による死亡が増加していました。エコロジカル研究という欠点はありますが、本研究は他の知見と同じく、メチル水銀の高血圧への影響という知見を支持しています。

Sachiko Inoue, Takashi Yorifuji, Toshihide Tsuda, Hiroyuki Doi
Short-term effect of severe exposure to methylmercury on atherosclerotic heart disease and hypertension mortality in Minamata
Science of the Total Environment 2012; 417-418: 291-293

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2012/5/8

結合型および橋渡し型ソーシャル・キャピタルと主観的健康に関する論文出版のお知らせ

ソーシャル・キャピタル(以下SC)は、個人の社会参加等のリソースや、信頼・互酬性等の集団の持つ特性とも定義されており、一般的に、健康に良い影響を与えることが示唆されています。この度、結合型および橋渡し型という、異なるタイプのSCを評価した上で、どちらのSCが健康に望ましいのかを検証した論文が、Journal of Epidemiology and Community Healthに出版されました。

本論文は、地域住民のSCを、社会的特性が似通った集団内でアクセスできる結合型SCと、社会的特性の境界を超えてアクセスできる橋渡し型SCの2つに区別して評価し、それぞれと主観的健康の関連を男女ごとに調査しました。橋渡し型SCは男女ともに健康によい影響が認められ、女性では男性よりも明確な結果が見られました。一方、結合型SCは男女ともに明確な関連は認められませんでした。SCと健康を扱う研究において、結合型SCと橋渡し型SCを区別して測定することの重要性が示唆されました。

Iwase T, Suzuki E, Fujiwara T, Takao S, Doi H, Kawachi I.
Do bonding and bridging social capital have differential effects on self-rated health? A community based study in Japan.
J Epidemiol Community Health. 2012;66(6):557-562.

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2012/3/16

寄与危険度分画に関する疫学理論論文出版のお知らせ

寄与危険度分画(attributable fraction)は、研究結果を提示する際に非常に有用な指標であり、疫学のテキストでも重要な概念の一つとして説明されています。1988年にAmerican Journal of Epidemiologyに出版されたGreenlandとRobinsの論文により、寄与危険度分画の概念について整理がなされ、現在、疫学のテキストでは、excess frsactionとetiologic fractionという二つの概念が説明されています。

この度、counterfactual modelとsufficient-cause modelの対応関係を、十分原因が完成する潜在時間の要素を考慮して明示することにより、寄与危険度分画について更なる考察を行った疫学理論論文が、American Journal of Epidemiologyに出版されました。

本論文では、excess fraction、attributable fraction、etiologic fractionの各指標について定義を明確に与え、それぞれがどのように計算されるかを示しました。本論文で扱っている内容は、「因果律をどのように定義するべきか」という根本的な論点と密接に関連しています。本論文で論じている内容が、今後、因果律を扱う際に有用な手引きになることを期待しています。

Suzuki E, Yamamoto E, Tsuda T.
On the relations between excess fraction, attributable fraction, and etiologic fraction.
Am J Epidemiol. 2012;175(6):567-575.

本論文へのリンク (PubMed)

2012/3/15

母親の労働時間と子供の肥満に関する論文出版のお知らせ

母親の労働時間と子供の肥満に関する論文が、Journal of Occupational Healthの最新号に出版されました。本論文では、母親の1日当たりの平均労働時間を自記式調査票で測定し、母親の未就学児の肥満との関係を、generalized estimating equationを用いたロジスティック回帰モデルにより解析しています。就業していない母親の子供に比して、8時間未満の労働をしている母親の子供では、肥満リスクが約70%低いという結果が得られました。本研究は、本邦における母親の労働時間と未就学児の肥満の関連を検証した最初の論文です。

Toshiharu Mitsuhashi, Etsuji Suzuki, Soshi Takao, Hiroyuki Doi.
Maternal working hours and early childhood overweight in Japan: a population-based study.
Journal of Occupational Health. 2012;54(1):25-33.

→本論文へのリンク

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