研究業績

2013/5/12

本邦における自殺の社会的・地理的格差の変遷に関する論文出版のお知らせ

自殺は、本邦の公衆衛生における重要な課題の一つとなっています。これまでの国内外の研究で、景気の悪化と自殺者数の増加に関連があることが示唆されていますが、日本における自殺格差が、社会的または地理的にどのような変遷を辿っているのかに関しては明らかになっていませんでした。この度、本邦における自殺の社会的・地理的格差の変遷について検証した論文がPLoS Oneに出版されました。本研究は、ハーバード大学、広島大学の研究者らとの共同研究です。

本研究では、25歳から64歳の全人口を対象として、1975年から2005年の30年間にわたる自殺リスク格差の変遷を評価しました。結果として、男性において社会的格差のパターンが大きく変化している一方で、女性では、全体的に自殺リスクが低下傾向にあることが示されました。また、地理的格差については、特に男性において、1995年以降格差が大きく拡大していることが示唆されました。

本研究結果は、本邦における自殺の要因について、より明確な示唆を与えることが期待されます。

Suzuki E, Kashima S, Kawachi I, Subramanian SV.
Social and geographical inequalities in suicide in Japan from 1975 through 2005: a census-based longitudinal analysis.
PLoS One. 2013;8(5):e63443. (doi:10.1371/journal.pone.0063443)

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2013/3/7

交替勤務の糖尿病発症リスクへの影響に関する論文出版のお知らせ

交替勤務が糖尿病発症リスクにどのような影響を及ぼすかを検証した論文が、Acta Medica Okayamaに出版されました。

本研究は、交替勤務の強度(intensity)も考慮に入れて、交替勤務の糖尿病発症リスクへの影響を検証した最初の論文で、技能職の男性を対象に、調査票と定期健康診断の結果をもとに評価を行いました。その結果、常時二交替勤務群は、昼勤のみ群に比して、糖尿病のオッズ比が2倍以上に上昇する一方、不定期二交替勤務による糖尿病への影響は限定的であることが示唆され、層別分析では勤務年数の長い45歳以上の常時二交替群でより高い点推定値をとり、長期間の継続的な交替勤務により、健康への悪影響がより大きくすることも示唆しております。

Ika K, Suzuki E, Mitsuhashi T, Takao S, Doi H
Shift work and diabetes mellitus among male workers in Japan: does the intensity of shift work matter?
Acta Med Okayama. 2013;67(1):25-33.
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2012/12/14

マルチレベル分析における凝集指標の扱いに関する理論論文出版のお知らせ

近年の医学研究では、(高次な)エコロジカルレベルの曝露と個人レベルの曝露による健康影響を同時に評価することの重要性が認識されるようになっており、そのための統計学的手法の一つとして、マルチレベル分析を利用した研究が増えています。エコロジカルレベルの曝露を定義する際には、凝集指標(aggregated measure)が用いられる場合が少なくありません。この度、マルチレベル分析で、二つの異なる凝集指標(self-included measure vs. self-excluded measure)を如何に扱うべきかについて、理論的・技術的な側面を論じた理論論文がPLoS Oneに出版されました。本研究は、岡山理科大学およびハーバード大学の研究者との共同研究です。

本研究では、仮想介入の観点からself-included modelとself-excluded modelに含まれる母数の解釈を行いました。結論として、self-included modelはグループレベルの介入を想定する際に適しているのに対して、self-excluded modelは個人レベルの介入を想定する際に適していることを示しました。その結果について、職場のソーシャル・キャピタルと収縮期血圧に関する実データを用いて検証を行いました。

本研究結果が、医学研究においてマルチレベル解析を利用する際に、凝集指標を用いる上での重要な指針を与えることを期待します。

Suzuki E, Yamamoto E, Takao S, Kawachi I, Subramanian SV.
Clarifying the use of aggregated exposures in multilevel models: self-included vs. self-excluded measures.
PLoS One. 2012;7(12): e51717. (doi:10.1371/journal.pone.0051717)
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2012/7/4

本邦における死亡リスクの地域間格差に関する論文出版のお知らせ

健康格差は、全世界的に大きな学術的・社会的な注目を集めている論点です。この度、本邦における死亡リスクの地域間格差について詳細に検証した論文がPLoS Oneに出版されました。本研究は、ハーバード大学、広島大学の研究者らとの共同研究です。

我々の研究グループが最近発表した論文において、本邦では、社会的にも地理的にも健康格差が広がっていることが示唆されました。この研究結果を踏まえ、本研究では、地域間格差を生じさせている要因について、各地域の構成要素による影響(compositional effect)によるものなのか、あるいは、各地域の属性や特徴による影響(contextual effect)によるものなのかを、マルチレベル解析により検討しました。これらの影響の相対的な重要性を検証した結果、各都道府県で両影響の程度は大きく異なることが示唆されました。

本研究結果は、本邦で拡大しつつある地域間格差の要因について、より明確な示唆を与えることが期待されます。

Suzuki E, Kashima S, Kawachi I, Subramanian SV.
Geographic inequalities in all-cause mortality in Japan: compositional or contextual?
PLoS One. 2012;7(6):e39876. (doi:10.1371/journal.pone.0039876)
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2012/6/7

職場のソーシャル・キャピタルと高血圧発症リスクに関する論文出版のお知らせ

職場におけるソーシャル・キャピタルが、労働者の高血圧発症リスクにどのような影響を及ぼすかを検証した論文が、Journal of Hypertensionに出版されました。本研究は、フィンランド、米国、ポーランドの研究者らとの共同研究であり、フィンランドの公務員60922人を対象としたコホート研究です。男性では、職場のソーシャル・キャピタルが低いと高血圧発症リスクが高まることが示唆され、最も低い群は、最も高い群に比して、高血圧発症率が約40%高まることが示されました。一方、女性では明確な関連は認められませんでした。今後も、職場のソーシャル・キャピタルに関する包括的な研究が期待されます。

Oksanen T, Kawachi I, Jokela M, Kouvonen A, Suzuki E, Takao S, Virtanen M, Pentti J, Vahtera J, Kivimäki M.
Workplace social capital and risk of chronic and severe hypertension: a cohort study.
J Hypertens. 2012; 30(6):1129-1136.
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2012/6/6

マダガスカルにおけるヘルスセンターまでの近接性と新生児・乳児死亡率に関する論文出版のお知らせ

マダガスカルにおけるヘルスセンターまでの近接性と新生児・乳児死亡率に関する論文がPLoS Oneに出版されました。本研究は、広島大学、マダガスカル政府、JICAマダガスカル、ハーバード大学のスタッフおよび研究者らとの共同研究です。

開発途上国において、ヘルスセンターへの近接性は乳児の健康と影響があると報告されていますが、データ整備の関係でまだその評価は多くの国で不足しています。本研究は、マダガスカル政府が整備したヘルスセンターの位置情報を利用し、新生児、乳児死亡とヘルスセンターまでの関係をGISを活用しマダガスカル国土全土で評価しました。結果、ヘルスセンターより遠方に居住する対象者ほど、新生児死亡のリスクの増加が示唆されました。

Kashima S, Suzuki E, Okayasu T, Jean Louis R, Eboshida A, Subramanian SV.
Association between proximity to a health center and early childhood mortality in Madagascar.
PLoS One. 2012;7(6):e38370. (doi:10.1371/journal.pone.0038370)
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2012/6/4

大阪府寝屋川市における揮発性有機化合物質曝露と健康影響に関する論文出版のお知らせ

2004年8月に大阪府寝屋川市に廃プラスチック処理工場が建設され、その後の稼動に伴って、周辺住民が、悪臭、眼や喉の痛みなどの健康被害を訴えています。今回、健康調査を行い、工場から居住地域までの距離と症状の関連を検討した結果について、Journal of Occupational Healthに学術論文が出版されました。本研究は、本学大学院環境生命科学研究科、東京大学大学院新領域創成科学研究科、広島大学大学院医歯薬保健学研究院の研究者らとの共同研究です。

調査の結果、工場に近い地域に居住している住民ほど、咽頭・呼吸器・眼・皮膚症状などの症状を保有していました。様々な欠点はありますが、本知見は、大気中の揮発性有機化合物質曝露と皮膚粘膜刺激症状・呼吸器症状との関連を示唆しています。

Yorifuji T, Noguchi M, Tsuda T, Suzuki E, Takao S, Kashima S, Yanagisawa Y.
Does open-air exposure to volatile organic compounds near a plastic recycling factory cause health effects?
J Occup Health. 2012;54(2):79-87.
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2012/6/4

長時間労働とメタボリックシンドロームに関する論文出版のお知らせ

長時間労働による健康影響に関して、国内外で多くの研究が実施されてきましたが、長時間労働とメタボリックシンドロームの関連について検証した研究は皆無でした。この度、この点を調査した学術論文がBMC Public Healthに出版されました。

日本人男性労働者933人を対象とした横断研究を実施しました。多変量ロジスティック回帰モデルによる解析の結果、1日の労働時間7-8時間に比して、10時間より長い場合には、メタボリックシンドロームのオッズ比が二倍以上になることが示唆されました。この傾向は、40歳以上の群でより顕著に認められましたが、40歳未満の群では明らかな関連は見られませんでした。本研究結果は、メタボリックシンドロームのリスクを増加させる労働時間のトリガーレベルが、10時間/日であることを示唆していると考えられます。

Kobayashi T, Suzuki E, Takao S, Doi H.
Long working hours and metabolic syndrome among Japanese men: a cross-sectional study.
BMC Public Health. 2012;12:395. (doi:10.1186/1471-2458-12-395).
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2012/5/21

Age-Period-Cohort分析の因果理論的背景に関するコメンタリー出版のお知らせ

時の流れとともに、ヒトの健康アウトカムは様々に変化します。このような健康アウトカムの変遷を検証するため、これまで約80年にわたってage-period-cohort (APC) analysisが用いられてきました。この度、時間の概念を整理して、APC analysisに関する理論的な背景を論じた招待コメンタリーがSocial Science & Medicineに出版されました。

本コメンタリーでは、age, period, cohortという時間の三因子を、構成要素(composition)と文脈(context)で区別すること、及び、その概念化によりAPC analysisにおける仮想介入に重要な示唆が得られることを論じています。加えて、時間の操作可能性について言及しています。最後に、文脈の主要な三次元として、relational dimension, spacial dimension, temporal dimensionという概念モデルを提唱し、マルチレベルでの因果律を論じる際には、文脈の三次元を念頭に置くことが重要であることを提言しました。

Eco-epidemiologyという因果律の新たな時代において、マルチレベルでの因果律の重要性が指摘されています。本コメンタリーが、時間という概念の重要性を再認識するうえで役立つことが期待されます。

Suzuki E.
Time changes, so do people.
Soc Sci Med. 2012 (in press) (doi: 10.1016/j.socscimed.2012.03.036)

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2012/5/15

水俣における動脈硬化性疾患死亡や高血圧死亡に関する論文出版のお知らせ

最近の研究は、メチル水銀曝露の心筋梗塞や高血圧への影響を示唆していますが、今回我々は高濃度メチル水銀汚染が起きた水俣で、動脈硬化性疾患死亡や高血圧死亡が増加していたかを検証しました。結果として、動脈硬化性疾患死亡は増加していませんでしたが、高血圧による死亡が増加していました。エコロジカル研究という欠点はありますが、本研究は他の知見と同じく、メチル水銀の高血圧への影響という知見を支持しています。

Sachiko Inoue, Takashi Yorifuji, Toshihide Tsuda, Hiroyuki Doi
Short-term effect of severe exposure to methylmercury on atherosclerotic heart disease and hypertension mortality in Minamata
Science of the Total Environment 2012; 417-418: 291-293

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