研究業績

2012/6/4

長時間労働とメタボリックシンドロームに関する論文出版のお知らせ

長時間労働による健康影響に関して、国内外で多くの研究が実施されてきましたが、長時間労働とメタボリックシンドロームの関連について検証した研究は皆無でした。この度、この点を調査した学術論文がBMC Public Healthに出版されました。

日本人男性労働者933人を対象とした横断研究を実施しました。多変量ロジスティック回帰モデルによる解析の結果、1日の労働時間7-8時間に比して、10時間より長い場合には、メタボリックシンドロームのオッズ比が二倍以上になることが示唆されました。この傾向は、40歳以上の群でより顕著に認められましたが、40歳未満の群では明らかな関連は見られませんでした。本研究結果は、メタボリックシンドロームのリスクを増加させる労働時間のトリガーレベルが、10時間/日であることを示唆していると考えられます。

Kobayashi T, Suzuki E, Takao S, Doi H.
Long working hours and metabolic syndrome among Japanese men: a cross-sectional study.
BMC Public Health. 2012;12:395. (doi:10.1186/1471-2458-12-395).
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2012/5/21

Age-Period-Cohort分析の因果理論的背景に関するコメンタリー出版のお知らせ

時の流れとともに、ヒトの健康アウトカムは様々に変化します。このような健康アウトカムの変遷を検証するため、これまで約80年にわたってage-period-cohort (APC) analysisが用いられてきました。この度、時間の概念を整理して、APC analysisに関する理論的な背景を論じた招待コメンタリーがSocial Science & Medicineに出版されました。

本コメンタリーでは、age, period, cohortという時間の三因子を、構成要素(composition)と文脈(context)で区別すること、及び、その概念化によりAPC analysisにおける仮想介入に重要な示唆が得られることを論じています。加えて、時間の操作可能性について言及しています。最後に、文脈の主要な三次元として、relational dimension, spacial dimension, temporal dimensionという概念モデルを提唱し、マルチレベルでの因果律を論じる際には、文脈の三次元を念頭に置くことが重要であることを提言しました。

Eco-epidemiologyという因果律の新たな時代において、マルチレベルでの因果律の重要性が指摘されています。本コメンタリーが、時間という概念の重要性を再認識するうえで役立つことが期待されます。

Suzuki E.
Time changes, so do people.
Soc Sci Med. 2012 (in press) (doi: 10.1016/j.socscimed.2012.03.036)

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2012/5/15

水俣における動脈硬化性疾患死亡や高血圧死亡に関する論文出版のお知らせ

最近の研究は、メチル水銀曝露の心筋梗塞や高血圧への影響を示唆していますが、今回我々は高濃度メチル水銀汚染が起きた水俣で、動脈硬化性疾患死亡や高血圧死亡が増加していたかを検証しました。結果として、動脈硬化性疾患死亡は増加していませんでしたが、高血圧による死亡が増加していました。エコロジカル研究という欠点はありますが、本研究は他の知見と同じく、メチル水銀の高血圧への影響という知見を支持しています。

Sachiko Inoue, Takashi Yorifuji, Toshihide Tsuda, Hiroyuki Doi
Short-term effect of severe exposure to methylmercury on atherosclerotic heart disease and hypertension mortality in Minamata
Science of the Total Environment 2012; 417-418: 291-293

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2012/5/8

結合型および橋渡し型ソーシャル・キャピタルと主観的健康に関する論文出版のお知らせ

ソーシャル・キャピタル(以下SC)は、個人の社会参加等のリソースや、信頼・互酬性等の集団の持つ特性とも定義されており、一般的に、健康に良い影響を与えることが示唆されています。この度、結合型および橋渡し型という、異なるタイプのSCを評価した上で、どちらのSCが健康に望ましいのかを検証した論文が、Journal of Epidemiology and Community Healthに出版されました。

本論文は、地域住民のSCを、社会的特性が似通った集団内でアクセスできる結合型SCと、社会的特性の境界を超えてアクセスできる橋渡し型SCの2つに区別して評価し、それぞれと主観的健康の関連を男女ごとに調査しました。橋渡し型SCは男女ともに健康によい影響が認められ、女性では男性よりも明確な結果が見られました。一方、結合型SCは男女ともに明確な関連は認められませんでした。SCと健康を扱う研究において、結合型SCと橋渡し型SCを区別して測定することの重要性が示唆されました。

Iwase T, Suzuki E, Fujiwara T, Takao S, Doi H, Kawachi I.
Do bonding and bridging social capital have differential effects on self-rated health? A community based study in Japan.
J Epidemiol Community Health. 2012;66(6):557-562.

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2012/3/16

寄与危険度分画に関する疫学理論論文出版のお知らせ

寄与危険度分画(attributable fraction)は、研究結果を提示する際に非常に有用な指標であり、疫学のテキストでも重要な概念の一つとして説明されています。1988年にAmerican Journal of Epidemiologyに出版されたGreenlandとRobinsの論文により、寄与危険度分画の概念について整理がなされ、現在、疫学のテキストでは、excess frsactionとetiologic fractionという二つの概念が説明されています。

この度、counterfactual modelとsufficient-cause modelの対応関係を、十分原因が完成する潜在時間の要素を考慮して明示することにより、寄与危険度分画について更なる考察を行った疫学理論論文が、American Journal of Epidemiologyに出版されました。

本論文では、excess fraction、attributable fraction、etiologic fractionの各指標について定義を明確に与え、それぞれがどのように計算されるかを示しました。本論文で扱っている内容は、「因果律をどのように定義するべきか」という根本的な論点と密接に関連しています。本論文で論じている内容が、今後、因果律を扱う際に有用な手引きになることを期待しています。

Suzuki E, Yamamoto E, Tsuda T.
On the relations between excess fraction, attributable fraction, and etiologic fraction.
Am J Epidemiol. 2012;175(6):567-575.

本論文へのリンク (PubMed)

2012/3/15

母親の労働時間と子供の肥満に関する論文出版のお知らせ

母親の労働時間と子供の肥満に関する論文が、Journal of Occupational Healthの最新号に出版されました。本論文では、母親の1日当たりの平均労働時間を自記式調査票で測定し、母親の未就学児の肥満との関係を、generalized estimating equationを用いたロジスティック回帰モデルにより解析しています。就業していない母親の子供に比して、8時間未満の労働をしている母親の子供では、肥満リスクが約70%低いという結果が得られました。本研究は、本邦における母親の労働時間と未就学児の肥満の関連を検証した最初の論文です。

Toshiharu Mitsuhashi, Etsuji Suzuki, Soshi Takao, Hiroyuki Doi.
Maternal working hours and early childhood overweight in Japan: a population-based study.
Journal of Occupational Health. 2012;54(1):25-33.

→本論文へのリンク

2012/3/3

本邦における社会的・地理的健康格差の変遷に関する論文出版のお知らせ

健康格差は、全世界的に大きな学術的・社会的な注目を集めている論点です。この度、本邦における社会的・地理的健康格差の変遷について検証した論文がBMJ Openに出版されました。本研究は、ハーバード大学、広島大学の研究者らとの共同研究です。

近年、本邦における健康格差の拡大が懸念されていますが、これまで、この論点を詳細に検証し議論した研究は皆無でした。本研究では、成人の早期全死因死亡をアウトカムとして用いて、1970年から2005年の35年間にわたる健康格差の変遷を評価しました。結果として、男女とも、社会的にも地理的にも健康格差が広がっていること、また、本邦における社会的健康格差の変遷は、欧米諸国で一般に見られるパターンとは異なることが示唆されました。

特に、2011年には日本の皆保険制度が50周年を迎え、本邦の健康政策に対する関心は世界的に高まっています。本研究が、本邦における健康格差に関して有用な知見を与えることが期待されます。

Suzuki E, Kashima S, Kawachi I, Subramanian SV.
Social and geographic inequalities in premature adult mortality in Japan: a multilevel observational study from 1970 to 2005.
BMJ Open. 2012;2:e000425. doi:10.1136/bmjopen-2011-000425

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2012/3/16

幹線道路近傍への居住と胎盤・出生児体重比に関する論文出版のお知らせ

大気汚染曝露が早産や低出生体重児のリスクを上昇させると考えられています。今回は、そのような状況の中、大きな道路近傍に居住している母親とそうでない母親の(胎盤輸送機能のマーカーとしての)胎盤・出生児体重比の違いを検討いたしました。結果として、大きな道路近傍の居住者の方が胎盤・出生児体重比が大きくなっていました。また、この関係は、道路に近く居住するほど強くなっていました。胎盤の酸素や栄養素の輸送機能が障害されることが、大気汚染と早産や低出生体重児のメカニズムを説明する要因の一つかもしれません。

Yorifuji T, Naruse H, Kashima S, Murakoshi T, Tsuda T, Doi H, Kawachi I.
Residential proximity to major roads and placenta/birth weight ratio.
Science of the Total Environment 2012;414:98-102

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2012/3/15

Inverse probability weightingとprincipal stratificationに関するコメンタリー出版のお知らせ

疫学研究において、選択バイアスは重要な論点の一つとなっています。特に高齢者コホートでは、研究対象者の死亡による打ち切りが、選択バイアスを引き起こし得る重要な因子の一つとして認識されています。

この度、この問題を扱うにあたり、inverse probability weightingとprincipal stratificationの二つのアプローチを比較検討することの重要性を提起したコメンタリーが、EPIDEMIOLOGYに出版されました。本コメンタリーは、パリのInsermの研究者らとの共同執筆です。

コメンタリーの対象となった論文では、inverse probability of attrition weights (IPAW) を用いて、高齢者における喫煙と認知機能低下の関連を評価していました。本コメンタリーでは、追跡期間中に死亡した対象者において、認知機能低下に関する潜在アウトカムが「欠損」しているのか、あるいは「定義できない」状態にあるのかを明確に概念化すること、及び、因果を評価する対象となるtarget populationを明確にすること等の重要性を論じています。著者らからは、非常に長いrejoinderも出版されています。一連の論文が、今後の選択バイアスの議論に重要な示唆を与えることが期待されます。

Chaix B, Evans D, Merlo J, Suzuki E.
Weighing up the dead and missing: reflections on inverse-probability weighting and principal stratification to address truncation by death.
Epidemiology. 2012;23(1):129-131.

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2012/3/16

戦後日本における乳児死亡率低下における医療の役割についての論文出版のお知らせ

日本は戦後乳児死亡率が劇的に下がりました。今回、医療や公衆衛生上の要因がこの劇的な減少にどのように寄与しているかを検討しました。結果として、戦後の乳児死亡率の減少は県レベルでの医療資源と強く相関していました。日本の事例は、戦後日本の乳児死亡率の減少は医療資源と強く関連していること、また劇的な経済発達の前にも劇的な乳児死亡率減少が見られたことを物語っています。

Takashi Yorifuji, Shinichi Tanihara, Sachiko Inoue, Soshi Takao, Ichiro Kawachi.
The role of medicine in the decline of post-War infant mortality in Japan.
Paediatric and Perinatal Epidemiology 2011;25(6):601-608

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