研究業績

2014/2/7

満期出生児における出生時身長と入院に関する論文掲載のお知らせ

出生時の体重とその後の健康・発達との関連は研究が進んでおり、多くの知見が集積されています。その一方で出生時の身長とその後の健康との関連はあまり明らかになっていません。よって私たちは、満期、単胎児の生まれたときの身長と1歳半時および2歳半時の疾病罹患(入院歴で評価)との関連を調査しました。その結果、平均身長で生まれた子の健康が一番よく、平均よりも身長が高くなったり低くなったりするほど入院のリスクが高まることが明らかになりました。出生時の体重とその後の健康・発達との関連は研究が進んでおり、多くの知見が集積されています。その一方で出生時の身長とその後の健康との関連はあまり明らかになっていません。よって私たちは、満期、単胎児の生まれたときの身長と1歳半時および2歳半時の疾病罹患(入院歴で評価)との関連を調査しました。その結果、平均身長で生まれた子の健康が一番よく、平均よりも身長が高くなったり低くなったりするほど入院のリスクが高まることが明らかになりました。

Kato T, Yorifuji T, Inoue S, Doi H, Kawachi I.
Association of Birth Length and Risk of Hospitalization among Full-term Babies in Japan.
Paediatric and Perinatal Epidemiology. 2013; 27(4): 361-70.
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2014/2/5

直接効果に関する新たな指標(Proportion Eliminated)に関する論文出版のお知らせ

医学における因果推論を扱う際に、しばしば、曝露 (exposure) とアウトカム (outcome) の仲介因子 (mediator) の扱いに関心が向けられます。これまで、曝露がアウトカムに及ぼす全効果のうち、どの程度が仲介因子によって介在 (mediation) されているのかを定量的に表す指標としてproportion mediatedが用いられてきました。しかし、この指標の意義は政策決定の観点からは限られているため、この点が問題となっていました。この問題点を踏まえ、2013年にハーバード大学のDr. Tyler J. VanderWeeleが、政策決定の観点から有用と思われる新たな指標としてproportion eliminatedを提唱しました。

この度、proportion eliminatedの有用性を高めるためには、指標の定義を改めることが必要であることを提唱した論文がEPIDEMIOLOGYに出版されました。また、異なるスケールにおけるproportion eliminatedの関連性について論じるとともに、VanderWeele (2013) の誤りを指摘した論文も出版されました。

本論文で論じている内容が、今後、因果推論に関する洞察を深める上で役立つことを期待しています。

Suzuki E, Mitsuhashi T, Tsuda T, Yamamoto E.
Alternative definitions of “proportion eliminated”.
Epidemiology. 2014;25(2):308-309.
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Suzuki E, Evans D, Chaix B, VanderWeele TJ.
On the “proportion eliminated” for risk differences versus excess relative risks.
Epidemiology. 2014;25(2):309-310.
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2014/2/5

社会経済的状態と死亡との関連に及ぼす健康行動の影響に関するコメンタリー出版のお知らせ

近年の疫学理論の発展に伴い、実証研究で得られた結果を報告する際に、様々な感度分析を行って研究結果の妥当性や頑強性を高めることが広まっています。特に、これらの高度な分析手法によって、「古典的」な研究仮説に対して新たな洞察が得られることも期待されています。

この度、社会経済的状態と死亡との関連に健康行動がどのように関与しているのか、という古典的な社会疫学研究において、感度分析等の新たな手法がどのような新たな洞察を与えるか、というテーマに関するコメンタリーが、EPIDEMIOLOGYに出版されました。本コメンタリーは、パリのInsermの研究者らとの共同執筆です。

コメンタリーの対象となった論文では、marginal structural models (MSMs) を用いて時間依存性交絡因子の調整を試みたほか、変数の測定誤差に関する感度分析を行うなど、様々な手法を用いて古典的な研究仮説を検証していました。本コメンタリーでは、これらの手法を用いることにより、どのような示唆が得られるのかについて論じるとともに、因果論の観点から、本研究テーマの結果の解釈には注意が必要であることを論じています。一連の論文が、今後の疫学研究に重要な示唆を与えることが期待されます。

Chaix B, Evans D, Suzuki E.
Socioeconomic status, health behavior, and mortality: old question plus modern methods equals new insights?
Epidemiology. 2014;25(2):178-181.
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2013/12/24

日本人高齢者における結合型・橋渡し型ソーシャル・キャピタルと主観的健康に関する論文出版のお知らせ

ソーシャル・キャピタルは、結合型ソーシャル・キャピタルと橋渡し型ソーシャル・キャピタルに区別され、両者の健康影響は異なると考えられています。結合型ソーシャル・キャピタルは、社会的特性が似通っている人々との信頼や協力関係のことをいい、橋渡し型ソーシャル・キャピタルは、社会的特性が異なっている人々とのつながりのことをいいます。この度、岡山県の農村部在住の高齢者において、結合型/橋渡し型ソーシャル・キャピタルと主観的健康の関連を検証した論文が、BMC Public Healthに出版されました。

その結果、男性高齢者は結合型・橋渡し型ソーシャル・キャピタルから共に健康に良い影響を受ける一方で、女性高齢者は結合型ソーシャル・キャピタルから健康に良い影響を受けることが示唆されました。社会経済的背景が異なるとソーシャル・キャピタルの健康影響が異なることが先行研究で示唆されているため、今後は、都市部の高齢者についても検証する必要があると考えられます。

Kishimoto Y, Suzuki E, Iwase T, Doi H, Takao S. Group involvement and self-rated health among the Japanese elderly: an examination of bonding and bridging social capital. BMC Public Health. 2013;13:1189. (doi:10.1186/1471-2458-13-1189)
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2013/12/24

日本人高齢者におけるType Dと心理的苦痛・主観的健康に関する論文出版のお知らせ

Type D気質は、negative affectivity(否定的な感情や視点、考えを抱きやすい傾向)とsocial inhibition(他者からの否認や非難などを恐れるため、否定的な感情を表現できない傾向)を併せ持った気質とされ、有している人はうつ病、PTSDなどの精神疾患やメタボリックシンドロームや心疾患などの身体的疾患に罹患しやすいと言われています。これまで日本ではType D気質に関する研究はなく、アジアにおいても一般人のみを対象にした研究はありませんでした。また世界的に見ても高齢者におけるType D気質の研究はありませんでした。この度、本邦の高齢者におけるType D気質と心理的苦痛および主観的健康について検証した論文がPLoS Oneに出版されました。

本研究では、一般人を対象にした先行研究(18.1%-38.5%)に比べてType D気質を有する割合が46.3%と高いことが示されました。このことは、対象者の年齢の差や、欧米との文化的背景の違いなどが影響している可能性があります。また、日本人高齢者では男女ともに、Type D気質を有する者は有しない者に比べて、オッズ比が有意に心理的苦痛で4倍以上、主観的不健康で2倍以上に高くなることが示唆されました。特に75歳以上に比べて65-74歳の方がよりオッズ比が高くなり、定年退職直後の方などで注意する必要があると思われます。

Kasai Y, Suzuki E, Iwase T, Doi H, Takao S (2013) Type D Personality Is Associated with Psychological Distress and Poor Self-Rated Health among the Elderly: A Population-Based Study in Japan. PLoS ONE 8(10): e77918. doi:10.1371/journal.pone.0077918
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2013/8/17

反事実モデルに基づいたバイアスと効果修飾に関する疫学理論論文出版のお知らせ

医学における因果推論を扱う際に、バイアスや効果修飾の概念を理解することは必要不可欠です。1986年にInternational Journal of Epidemiologyに出版されたGreenlandとRobinsの論文によって、反事実モデル (counterfactual model) が疫学者に紹介されて以降、反事実モデルに基づくバイアスの定義が広まり、今ではスタンダードな説明として教科書でも取り上げられるようになっています。

この度、反事実モデルにおける反応タイプを用いることにより、バイアスと効果修飾の概念について更なる考察を行った疫学理論論文が、BMC Medical Research Methodologyに出版されました。

本論文では、観察研究および実験研究における理論的なデータ分布を反応タイプを用いて表すことにより、反事実モデルに基づく「目に見えない」概念を可視化することを試みました。その上で、交絡バイアスと選択バイアスを一元的に説明し、因果推論で重要な交換可能性 (exchangeability) の仮定に関する考察を深めています。更に、拡張DAG (directed acyclic graph) を用いることにより、これらの知見を視覚的に説明しています。

本論文で論じている内容が、今後、バイアスや効果修飾の概念を理解し、因果推論に関する洞察を深める上で役立つことを期待しています。

Suzuki E, Mitsuhashi T, Tsuda T, Yamamoto E.
A counterfactual approach to bias and effect modification in terms of response types.
BMC Med Res Methodol. 2013;13:101. (doi:10.1186/1471-2288-13-101)
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2013/5/18

中間因子の扱いに関する因果理論の章を含む書籍出版のお知らせ

医学研究においてある特定の仮説を検証する際に、曝露(原因)とアウトカム(結果)の間に介在する中間因子の扱いに注意しないならば、バイアスによって誤った結論に至ることが往々にしてあります。例えば、母親の喫煙と新生児死亡の関連を評価する際に、中間因子となる出生時体重の扱いが問題になることがあります。この場合、低体重出生児において母親の喫煙と新生児死亡の関連を単純に評価すると、あたかも母親の喫煙が新生児死亡を抑制するかのような関連が見られることがあり、この現象はbirth weight paradoxとして知られています。

近年の疫学・統計学理論の発展により、妥当な因果推論を行うための中間因子の扱いに関して、principal strata effectsやnatural direct effectsという概念が注目されるようになりました。この度、これらの最新の理論的知見を総説した章「Causal Inference with Intermediates: Simple Methods for Principal Strata Effects and Natural Direct Effects」を含む書籍「Current Topics in Public Health」が出版されました。本書籍は、ハードコピー版としても出版されますが、オンライン版は無料で公開されており、全ての章のPDFファイルをダウンロードすることができます。

本章以外にも、公衆衛生の幅広い論点が扱われていますので、是非ご活用ください。

Yasutaka Chiba and Etsuji Suzuki (2013).
Causal Inference with Intermediates: Simple Methods for Principal Strata Effects and Natural Direct Effects, Current Topics in Public Health, Dr. Alfonso Rodriguez-Morales (Ed.), ISBN: 978-953-51-1121-4, InTech, DOI: 10.5772/53193.

Available from: http://www.intechopen.com/books/current-topics-in-public-health/causal-inference-with-intermediates-simple-methods-for-principal-strata-effects-and-natural-direct-e

2013/5/12

本邦における自殺の社会的・地理的格差の変遷に関する論文出版のお知らせ

自殺は、本邦の公衆衛生における重要な課題の一つとなっています。これまでの国内外の研究で、景気の悪化と自殺者数の増加に関連があることが示唆されていますが、日本における自殺格差が、社会的または地理的にどのような変遷を辿っているのかに関しては明らかになっていませんでした。この度、本邦における自殺の社会的・地理的格差の変遷について検証した論文がPLoS Oneに出版されました。本研究は、ハーバード大学、広島大学の研究者らとの共同研究です。

本研究では、25歳から64歳の全人口を対象として、1975年から2005年の30年間にわたる自殺リスク格差の変遷を評価しました。結果として、男性において社会的格差のパターンが大きく変化している一方で、女性では、全体的に自殺リスクが低下傾向にあることが示されました。また、地理的格差については、特に男性において、1995年以降格差が大きく拡大していることが示唆されました。

本研究結果は、本邦における自殺の要因について、より明確な示唆を与えることが期待されます。

Suzuki E, Kashima S, Kawachi I, Subramanian SV.
Social and geographical inequalities in suicide in Japan from 1975 through 2005: a census-based longitudinal analysis.
PLoS One. 2013;8(5):e63443. (doi:10.1371/journal.pone.0063443)

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2013/3/7

交替勤務の糖尿病発症リスクへの影響に関する論文出版のお知らせ

交替勤務が糖尿病発症リスクにどのような影響を及ぼすかを検証した論文が、Acta Medica Okayamaに出版されました。

本研究は、交替勤務の強度(intensity)も考慮に入れて、交替勤務の糖尿病発症リスクへの影響を検証した最初の論文で、技能職の男性を対象に、調査票と定期健康診断の結果をもとに評価を行いました。その結果、常時二交替勤務群は、昼勤のみ群に比して、糖尿病のオッズ比が2倍以上に上昇する一方、不定期二交替勤務による糖尿病への影響は限定的であることが示唆され、層別分析では勤務年数の長い45歳以上の常時二交替群でより高い点推定値をとり、長期間の継続的な交替勤務により、健康への悪影響がより大きくすることも示唆しております。

Ika K, Suzuki E, Mitsuhashi T, Takao S, Doi H
Shift work and diabetes mellitus among male workers in Japan: does the intensity of shift work matter?
Acta Med Okayama. 2013;67(1):25-33.
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2012/12/14

マルチレベル分析における凝集指標の扱いに関する理論論文出版のお知らせ

近年の医学研究では、(高次な)エコロジカルレベルの曝露と個人レベルの曝露による健康影響を同時に評価することの重要性が認識されるようになっており、そのための統計学的手法の一つとして、マルチレベル分析を利用した研究が増えています。エコロジカルレベルの曝露を定義する際には、凝集指標(aggregated measure)が用いられる場合が少なくありません。この度、マルチレベル分析で、二つの異なる凝集指標(self-included measure vs. self-excluded measure)を如何に扱うべきかについて、理論的・技術的な側面を論じた理論論文がPLoS Oneに出版されました。本研究は、岡山理科大学およびハーバード大学の研究者との共同研究です。

本研究では、仮想介入の観点からself-included modelとself-excluded modelに含まれる母数の解釈を行いました。結論として、self-included modelはグループレベルの介入を想定する際に適しているのに対して、self-excluded modelは個人レベルの介入を想定する際に適していることを示しました。その結果について、職場のソーシャル・キャピタルと収縮期血圧に関する実データを用いて検証を行いました。

本研究結果が、医学研究においてマルチレベル解析を利用する際に、凝集指標を用いる上での重要な指針を与えることを期待します。

Suzuki E, Yamamoto E, Takao S, Kawachi I, Subramanian SV.
Clarifying the use of aggregated exposures in multilevel models: self-included vs. self-excluded measures.
PLoS One. 2012;7(12): e51717. (doi:10.1371/journal.pone.0051717)
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