研究業績

2014/4/3

訪問診療患者の在宅死成立因子に関する論文出版のお知らせ

訪問診療患者の在宅死成立因子を検証した論文がGeriatrics Gerontology Internationalに出版されました。

わが国では在宅医療を行う診療所が増加する一方で、在宅死は増加していない状況にあります。この状況を踏まえ、一在宅療養支援診療所の訪問診療患者データを用いて後ろ向きコホート研究を行い、ADL低下と在宅死の関連を検討しました。対象患者をADL高度低下の有無で二群に分け、コックスの比例ハザードモデルを用いて、高度ADL低下による在宅死発生ハザード比を求めました。その結果、高度ADL低下の在宅死発生に対する調整ハザード比は4.41 (95% CI: 2.37-8.16) と、統計学的に有意に高い結果を示しました。がんの有無で層別したサブグループ解析を行ったところ、がん有のサブグループでは5.64 (95% CI: 2.47-12.91)、がん無のサブグループでは11.96 (95% CI: 3.39-42.15) という結果になりました。がんがある患者に比して、がんがない患者においてADL高度低下と在宅死の関連が強いことから、訪問診療により、末期がんだけではなく、非がん寝たきり患者の増加の可能性が示唆されました。

Seiji Kawagoe, Toshihide Tsuda, and Hiroyuki Doi
Study on the factors determining home death of patients during home care: A historical cohort study at a home care support clinic
Geriatrics Gerontology International 2013;13:874-880.

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2014/3/8

自殺の地域間格差拡大に及ぼす地域の経済状況の影響に関する論文出版のお知らせ

自殺対策は、多くの国における公衆衛生分野の重要な課題の一つとなっています。我々の研究グループは最近、日本の自殺格差が社会的または地理的にどのような変遷を辿っているのかに関して評価を行い、この30年の間に、男性において格差が著しく拡大していることを明らかにしました(Suzuki et al., 2013, PLoS One)。この成果を踏まえ、拡大する地域間自殺格差の背景として、地域の社会経済的特性が個人の特性を超えて影響を及ぼしているのか、また影響しているとすれば、近年の地域間格差拡大に伴って影響の程度が強くなっているのかに関して、経年的に検証した論文が European Journal of Public Health に出版されました。本研究は、ハーバード大学、広島大学の研究者らとの共同研究です。

本研究では、25歳から64歳の全人口を対象として、1975年から2010年の35年間にわたる各都道府県における自殺リスクの変遷を評価すると同時に、各都道府県の経済状況(平均収入、平均貯蓄高、平均収入のジニ係数)の変遷を評価することにより、自殺の地域間格差拡大に及ぼす地域の経済状況の影響を検証しました。結果として、男性において、地域の平均貯蓄高や平均収入が低い場合に自殺リスクが高まること、特に近年ではその傾向が強まっていることが示されました。一方でジニ係数に関しては、日本の先行研究結果とは異なり、男女とも自殺リスクとの明確な関連は認められませんでした。

本研究結果は、男性における自殺の要因について、文脈的要素の重要性が高まっていることを示唆しています。

Suzuki E, Kashima S, Kawachi I, Subramanian SV.
Prefecture-level economic conditions and risk of suicide in Japan: a repeated cross-sectional analysis 1975–2010.
Eur J Public Health. 2014; doi:10.1093/eurpub/cku023

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2014/2/19

母乳育児と子どもの行動発達に関する論文掲載のお知らせ

母乳育児がその後の子どもの認知機能の発達に好影響を与えるということは指摘され
ていますが,行動発達とどのように関連するのかは明確な結論が出ていません。そこ
で,私たちは,日本の大規模な調査データを用いて,乳児期の母乳育児が2歳半およ
び5歳半時点での行動発達とどのように関連しているかを検討しました。その結果,
乳児期の母乳育児が行動発達に好影響を与えていることが明らかになりました。

Takashi Yorifuji, Toshihide Kubo, Michiyo Yamakawa, Tsuguhiko Kato,
SachikoInoue, Akiko Tokinobu, Hiroyuki Doi.
Breastfeeding and Behavioral Development: A Nationwide Longitudinal Survey in Japan.
The Journal of Pediatrics (published online)

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2014/2/10

母乳育児と子どもの肥満に関する論文掲載のお知らせ

乳児期の母乳育児がその後の子どもの肥満を予防する可能性が示唆され,欧米諸国において,今まで多くの研究がなされてきましたが,未だ明確な結論が出ていません。そこで,私たちは,日本の大規模な調査データを用いて,乳児期の母乳育児が7歳時および8歳時の肥満状況にどのような影響を及ぼしているかを検討しました。その結果,生後6~7か月の時点で母乳育児のみで育った子どもは,粉ミルクだけで育った子どもに比べ,肥満になりにくいことが明らかになりました。

Michiyo Yamakawa, Takashi Yorifuji, Sachiko Inoue, Tsuguhiko Kato, Hiroyuki Doi.
Breastfeeding and obesity among schoolchildren: a nationwide longitudinal survey in Japan.
JAMA Pediatrics. Published online August 12, 2013.

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2014/2/7

ポリ塩化ビフェニルとポリ塩化ジベンゾフランの混合物に汚染した米ぬか油の曝露による死産率と二次的性比の地域的検討に関する論文掲載のお知らせ

1968年に発生した、カネミ油症はPCBとPCDFの混合汚染として知られていますが、そのカネミ油症における周産期指標に関する知見は限られています。今回、深刻な被害があった2地域を対象に、PCBとPCDFの混合物曝露による死産率と二次性比(出生時の性比)の影響を評価致しました。結果として、曝露を受けた地域では1968年以降死産率が上昇し、男児の出生が減っていました。実際、1968年以降15年間は、自然死産率が男性比の減少と一致していました(つまり、死産率が増加している時期に、男の子の出生が減っていました。)。PCBとPCDFの混合物の曝露により曝露後15年間、死産率と性比が影響を受けていたと考えられます。

Yorifuji T, Kashima S, Tokinobu A, Kato T, Tsuda T.
Regional impact of exposure to a polychlorinated biphenyl and polychlorinated dibenzofuran mixture from contaminated rice oil on stillbirth rate and secondary sex ratio. Environ Int. 2013 Jun 1; 59 :12-15.

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2014/2/7

大きな道路近傍への居住と出生時アウトカムに関する論文掲載のお知らせ

大気汚染曝露が早産や低出生体重児のリスクを上昇させると考えられています。今回は、そのような状況の中、どのような社会経済的状況や属性を持った両親の場合、大気汚染の影響が強くなるのかを検討いたしました。結果として、大きな道路近傍の居住者の方が早産や低出生体重児の出生が多くなっていました。また、社会経済的状況、母親の糖尿病既往、高血圧既往、喫煙習慣が大気汚染の影響が強くなることに寄与していました。

Yorifuji T, Naruse H, Kashima S, Takao S, Murakoshi T, Doi H, Kawachi I.
Residential proximity to major roads and adverse birth outcomes: a hospital-based study. Environ Health. 2013 Apr 18;12(1):34.

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2014/2/7

水俣病1977年診断基準の批判的吟味に関する論文掲載のお知らせ

大規模なメチル水銀中毒による食中毒が水俣で発生したことはよく知られています。患者として認定する為の、認定制度とその診断基準が現在も利用されていますが、その診断基準の妥当性に関して評価した研究は少ないので検討を行いました。1971年の悉皆調査の結果を利用して検証した所、公式に認定された患者を除いてみても、曝露地域の多くの住民が神経学的所見を呈していました。また、診断のゴールドスタンダードとして四肢の感覚障害を利用した所、診断基準の感度は66%でした。よって、公式の認定制度や現在の診断基準は水俣病の発生を過小評価していると言えます。

Yorifuji T, Tsuda T, Inoue S, Takao S, Harada M, Kawachi I.
Critical appraisal of the 1977 diagnostic criteria for Minamata disease. Arch Environ Occup Health. 2013;68(1):22-9.

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2014/2/7

日本における早産と低出生体重児のトレンドに関する論文掲載のお知らせ

最近、乳児死亡率が減少しているにも関わらず、早産と低出生体重児が増加している背景を受け、増加に寄与する要因の検討を行いました。また、海外の研究と同じく、産科的介入がこれらの増加に寄与している場合、産科的介入が新生児の出生児のアウトカム(アプガースコア、血液ガス、NICU入院)にどのように影響を与えているかを検討しました。結果として、早産、特に医療的介入を受けて産まれた早産が増加しており、早産の増加と低出生児の増加とも産科的介入の変化によって一番説明されていました。増加が見られる反面、出生時のアウトカムは悪くはなっていませんでした。今後、産科的介入によって生まれた児のアウトカムの追跡、早産児のアウトカムの追跡が必要になると思われます。

Yorifuji T, Naruse H, Kashima S, Murakoshi T, Kato T, Inoue S, Doi H, Kawachi I. Trends of preterm birth and low birth weight in Japan: a one hospital-based study. BMC Pregnancy Childbirth. 2012 Dec 26;12:162.

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2014/2/7

大気汚染慢性曝露と脳血管疾患や肺がんとの関連に関する論文掲載のお知らせ

高齢者において、交通由来大気汚染による慢性曝露が心肺血管系疾患や肺がん死亡リスクにどのような影響を及ぼすかを検証しました。本研究は、個人レベルの交通由来の大気汚染濃度を推定し、心肺血管系疾患や肺がん死亡との関連を検証しました。結果として、大気汚染による慢性曝露が日本でも全死因死亡、心肺血管系死亡、肺がん死亡を増加させていることを示しました。

Yorifuji T, Kashima S, Tsuda T, Ishikawa-Takata K, Ohta T, Tsuruta K, Doi H.
Long-term exposure to traffic-related air pollution and the risk of death from hemorrhagic stroke and lung cancer in Shizuoka, Japan. Sci Total Environ. 2013 Jan 15;443:397-402.

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2014/2/7

Moderately preterm(32~36週での出生)と子どもの健康及び発達に関する論文掲載のお知らせ

近年、早産で生まれてくる赤ちゃんが全世界的に増加しており、特にModeratelypretermと呼ばれる32~36週の満期に近い早産の割合が日本および諸外国で増えています。これまで満期に近い早産は、健康及び発達に大きな影響がないと考えられておりあまり研究されていませんでした。しかし、今回の日本の大規模な調査データを用いた我々の研究によると、32週未満で生まれた子どもよりも2歳半および5歳半時での健康及び発達へのリスクは低かったものの、満期で生まれた子どもよりはリスクが高くなっていました。人口寄与率で表される公衆衛生へのインパクトの大きさを考慮すると、Moderately pretermの増加には注意すべきであることが明らかになりました。

Kato T, Yorifuji T, Inoue S, Yamakawa M, Doi H, Kawachi I. Preterm Births and Child Health and Development: Japanese Population-based Study, Journal of Pediatrics. 2013; 163(6); 1578-1584.

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