研究業績

2014/12/27

大気汚染曝露と満期低出生体重児の関連に関する論文掲載のお知らせ

大気汚染曝露と様々な出生児のアウトカム(低出生体重児、早産など)に関する知見は集積されてきていますが、今までの研究はある地域に限局されたものや大事な交絡要因を調整できていないものが多くあります。そこで、私たちは、日本の大規模な調査データを用いて、妊娠中の大気汚染曝露と満期で産まれた児の低出生体重児との関連を検討しました。その結果、大気汚染曝露が満期の低出生体重児を増加させていました。

Takashi Yorifuji, Saori Kashima, Hiroyuki Doi
Outdoor Air Pollution and Term Low Birth Weight in Japan
Environment International 2015;74:106-111

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2014/12/27

大きな道路近傍への居住と出生時アウトカムに関する論文掲載のお知らせ

大気汚染曝露が早産や低出生体重児のリスクを上昇させると考えられています。今回は、そのような状況の中、大きな道路近傍への居住と妊娠経過中の母体合併症との関連を検討いたしました。結果として、大きな道路近傍の居住者の方が妊娠高血圧症候群や37週以前の前期破水が多くなっていました。母体自身への影響だけでなく、大気汚染曝露と早産の関連のメカニズムの一部を説明していると考えられます。

Takashi Yorifuji, Hiroo Naruse, Saori Kashima, Takeshi Murakoshi, Hiroyuki Doi.
Residential Proximity to Major Roads and Obstetrical Complications
Science of the Total Environment 2015;508:188-192

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2014/11/29

Epistasis(遺伝子相互作用)に関する書籍出版のお知らせ

異なる遺伝子座間の相互作用が一つの形質に影響することがあります。このことに関連して、1909年に、遺伝学者の Dr. William Bateson は、ある遺伝子座の遺伝子型によって別の遺伝子座の遺伝子型の発現が抑えられる現象のことを、エピスタシス (epistasis) と呼びました。その後、エピスタシスという用語は、より広範な意味で用いられるようになり、一般に、遺伝子相互作用を指す用語として認知されています。

この度、Springer の Methods in Molecular Biology シリーズから、エピスタシスに関する最新の知見をまとめた書籍「Epistasis: Methods and Protocols」が出版されました。その第11章「Compositional Epistasis: An Epidemiologic Perspective」では、疫学理論の観点からエピスタシスを論じています。特に、反事実モデル (counterfactual model) の観点からエピスタシスを同定する十分条件などについて論じています。

疫学的な視点が、遺伝子・分子・細胞などのミクロのレベルにおけるメカニズムを明らかにするうえで有用であることを示す上で、本文献が役立つことも期待されます。

Suzuki E, VanderWeele TJ.
Compositional epistasis: an epidemiologic perspective.
In: Moore JH, Williams SM, eds. Epistasis: Methods and Protocols, Methods in Molecular Biology, vol. 1253, DOI: 10.1007/978-1-4939-2155-3_11, New York, NY: Springer, 2015: 197-216.
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2014/11/29

因果律に関する発表(@京都国際統計会議)について

2014年11月17日から18日に国立京都国際会館で開催された京都国際統計会議 (Kyoto International Conference on Modern Statistics in the 21st Century) の Invited Session: Causality で、因果律に関する発表を行いました。

Suzuki E, Tsuda T, Yamamoto E.
Sufficient-cause model and potential-outcome model.

因果律の主要なモデルである十分原因モデルと潜在アウトカムモデルの紹介を行い、これら二つのモデルの関連性について発表を行いました。主に、以下の論文の内容について焦点を当てた発表でした。

Suzuki E, Yamamoto E, Tsuda T. On the relations between excess fraction, attributable fraction, and etiologic fraction. Am J Epidemiol. 2012;175(6):567-575.

会議開催のためにご尽力いただいた関係者の方々、および、議論に参加していただいた皆様に深く御礼申し上げます。


2014/10/9

大気汚染曝露と心停止による救急搬送の関連に関する論文出版のお知らせ

最近、大気汚染物質曝露の健康影響が懸念されており、国内でも大気汚染物質への急性曝露と疾病別死亡の関連は評価が行われ、関連が指摘されてきています。しかしながら、疾病罹患との関連を検討した研究、特に心停止との関連を検討した研究は海外でも少なく、さらに大気汚染物質曝露と疾病罹患との関連の検討を行う際に、日単位の解析ではなく、毎時変動の影響を検証し考えられる有害作用を実証した疫学研究はごくわずかです。

本研究では岡山市の救急搬送データを利用し、症例発生前の異なる4期間(0-24時間、24-48時間、48-72時間、72-96時間)の大気汚染濃度を平均し、その影響の評価を行いました。結果として、濃度がIQR(四分位範囲)分増加する時のオッズ比は、発症から48–72時間前の浮遊粒子状物質曝露で1.17 (95% CI: 1.02–1.33)、72–96時間前のオゾンで1.40 (95% CI: 1.02–1.92)、24–48時間前の二酸化窒素曝露で1.24 (95% CI: 1.01–1.53)、48–72時間前の二酸化硫黄曝露で1.16 (95% CI: 1.00–1.34)となっており、浮遊粒子状物質、オゾン、二酸化窒素、二酸化硫黄の曝露が心停止のリスク上昇と関連していました。

Yorifuji T, Suzuki E, Kashima S.
Outdoor air pollution and out-of-hospital cardiac arrest in Okayama, Japan.
Journal of Occupational and Environmental Medicine. 2014;56(10):1019-1023.
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2014/10/9

大気汚染曝露と呼吸器疾患による救急搬送の関連に関する論文出版のお知らせ

2006年にWHOより出版されたWHO Air Quality Guideline Global Updateによると、短期曝露、慢性曝露共に呼吸器・心血管系の死亡の増加、呼吸器・心血管系疾患の罹患の増加、生理的機能への影響を引き起こすとされています。しかしながら、疾病罹患との関連を検討した研究は国内では少なく、また大気汚染の曝露と呼吸疾患の関連が時間単位でどうなっているかの検証は、ほとんどなされていません。

今回の研究においては、大気汚染の短期影響に着目し、大気汚染と呼吸器疾患発症との関連評価を行いました。本研究では岡山市の救急搬送データを利用し、症例発生前の異なる期間の大気汚染濃度を平均し、その影響の評価を行いました。結果として、発症の24-72時間前の浮遊粒子状物質曝露、発症の48-96時間前のオゾン曝露が呼吸器疾患の発症と関連していました。濃度がIQR(四分位範囲)分増加する時のオッズ比は、浮遊粒子状物質24-48時間前に関しては1.05 (95% CI: 1.01, 1.09)、オゾン72-96時間前に関しては1.13 (95% CI: 1.04, 1.23) でした。肺炎とインフルエンザに関しては0-24時間前の二酸化硫黄曝露が関連しており、オッズ比は1.07 (95% CI: 1.00, 1.14) でした。一方、慢性閉塞性肺疾患に関しては、結果ははっきりしませんでした。

Yorifuji T, Suzuki E, Kashima S.
Hourly differences in air pollution and risk of respiratory disease in the elderly: a time-stratified case-crossover study.
Environmental Health. 2014;13:67. (doi: 10.1186/1476-069X-13-67)
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2014/6/5

交絡の異なる観念を明らかにすることの重要性を指摘したレター出版のお知らせ

Epidemiology 2014年1月号で、米国コロンビア大学のDr. Gattoらが、疫学における因果効果に関する組織的なスキーマを提唱する総説論文を出版しました。この度、その論文に対するレターが Epidemiology に出版されました。

これまであまり認識されていない点ですが、交絡 (confounding) には、confounding in measure と confounding in distribution という二つの異なる観念があります。前者の観念では交絡の有無は指標に依存する一方で、後者の観念では交絡の有無は指標に依存しません。どちらの観念が用いられているかによって、交絡が存在しないことの十分条件も異なることになります。本レターでは、これらの観念の違いを明確に理解することにより、因果効果に関する組織的なスキーマを精錬できることを論じています。

本レターが、因果概念のさらなる理解に寄与することを期待しています。

Suzuki E, Yamamoto E.
Further refinements to the organizational schema for causal effects.
Epidemiology. 2014;25(4):618-619.
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レターの対象となった総説論文
Gatto NM, Campbell UB, Schwartz S.
An organizational schema for epidemiologic causal effects.
Epidemiology. 2014;25(1):88-97.
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著者らの回答
Gatto NM, Campbell UB, Schwartz S.
The authors respond:
Epidemiology. 2014;25(4):619-620.
本論文へのリンク


2014/6/18

交絡などの因果概念を効果的に教えるための例に関するレター出版のお知らせ

Annals of Epidemiology 2013年12月号で、ミネソタ大学のDr. Maldonadoが、疫学における因果概念に関する教育的論文を出版しました。その論文では、4つのライトを用いたシンプルな例により、交絡 (confounding) などの因果概念を説明することが提唱されています。この度、その論文に対するレターが Annals of Epidemiology に出版されました。

Dr. Maldonadoが用いた例はシンプルではあるものの、交絡の概念や directed acyclic graph (DAG) の活用方法に関する混乱や誤解を生じさせることが懸念されます。本レターではその点を、以下の三つの観点から論じています。

  1. 交絡の概念を効果的に教えるためには、全集団をターゲットとした場合の因果効果を論じることが望ましい。(このことにより、confounding in measure と confounding in distribution という二つの観念の違いが明確になる。)
  2. Dr. Maldonadoの例では、曝露状況がどのように生じたのかに関する背景が説明されていない。(そのため、confounding “in expectation” と “realized” confounding という二つの観念の違いが明確にされていない。)
  3. Dr. Maldonadoが示しているDAGは、用いられている例を正しく描出していない。

本レターが、因果概念のさらなる理解に寄与することを期待しています。

Suzuki E, Mitsuhashi T, Tsuda T, Yamamoto E.
A simple example as a pedagogical device?
Ann Epidemiol. 2014;24(7):560-561.
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レターの対象となった論文
Maldonado G.
Toward a clearer understanding of causal concepts in epidemiology.
Ann Epidemiol. 2013;23(12):743-749.
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2014/4/29

看護職員の地理的分布の推移に関する論文出版のお知らせ

わが国における看護職員の地理的分布の推移について検討した論文が Acta Medica Okayama に出版されました。

近年、医療政策上の課題として医師をはじめとする医療人材の全国的な分布や偏在が挙げられています。医師や歯科医師等についてはいくつかの研究報告がなされていますが、看護職員の分布や偏在について系統的に行われた研究は認められていません。

本研究では2000年から2010年の間における看護職員の地理的な分布の傾向を評価し、その間に施行された医療政策や社会問題などがどのように分布に影響するのかについて考察しました。各都道府県の保健統計より二次医療圏単位での看護職員の分布を算出し、ジニ係数を用いて偏在について評価しました。また、経時的な分布の推移を評価するためマルチレベル分析を行いました。結果として、看護職員数の増加と比較すると偏在の改善は顕著に認められず、医療政策や社会問題が看護職員の分布に影響を及ぼす可能性が示唆されました。また、人口密度を調整した上でも都道府県庁所在地を含む二次医療圏に有意に看護職員が集まる傾向が示唆されました。

さらなる詳細な検討が望まれるものの、本知見は、均等な看護職員の分布を実現するためには何らかの介入が必要であることを示唆していると解釈されます。

Izutsu M, Suzuki E, Izutsu Y, Doi H.
Trends in geographic distribution of nursing staff in Japan from 2000 to 2010: a multilevel analysis.
Acta Med Okayama. 2014:68(2):101-110.
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2014/4/29

大気汚染曝露と循環器疾患による救急搬送の関連に関する論文出版のお知らせ

大気汚染曝露と循環器疾患による救急搬送の関連を検討した論文が Stroke に出版されました。

最近、大気汚染物質曝露の健康影響が懸念されており、国内でも大気汚染物質への急性曝露と疾病別死亡の関連は評価が行われ、関連が指摘されてきています。しかしながら、疾病罹患との関連を検討した研究はいまだ少なく、さらに、大気汚染物質曝露と疾病罹患との関連の検討を行う際に、日単位の解析ではなく、時間単位の解析を行っている研究は国外でも数が限られています。本研究では、岡山市の救急搬送データを利用し、大気汚染物質急性曝露と循環器疾患、特に脳血管疾患との関連を検討しました。結果として、オキシダント以外、0-6時間前の大気汚染物質曝露が循環器疾患による救急搬送と正に関連していました。具体的には、0-6時間前の浮遊粒子状物質が20.6 μg/m3上昇することによる調整オッズ比は、1.04(95%信頼区間:1.01-1.06)でした。これら正の関連は、脳血管疾患、特に出血性脳疾患でも観察されました。大気汚染は、曝露後すぐに循環器疾患や脳血管疾患による救急搬送のリスクを上昇させると考えられます。

Takashi Yorifuji, Etsuji Suzuki, Saori Kashima.
Cardiovascular Emergency Hospital Visits and Hourly Changes in Air Pollution.
Stroke. 2014;45(5):1264-1268. doi: 10.1161/​STROKEAHA.114.005227
本論文へのリンク (PubMed)
PDFはこちらより入手できます


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