研究業績

2014/6/18

交絡などの因果概念を効果的に教えるための例に関するレター出版のお知らせ

Annals of Epidemiology 2013年12月号で、ミネソタ大学のDr. Maldonadoが、疫学における因果概念に関する教育的論文を出版しました。その論文では、4つのライトを用いたシンプルな例により、交絡 (confounding) などの因果概念を説明することが提唱されています。この度、その論文に対するレターが Annals of Epidemiology に出版されました。

Dr. Maldonadoが用いた例はシンプルではあるものの、交絡の概念や directed acyclic graph (DAG) の活用方法に関する混乱や誤解を生じさせることが懸念されます。本レターではその点を、以下の三つの観点から論じています。

  1. 交絡の概念を効果的に教えるためには、全集団をターゲットとした場合の因果効果を論じることが望ましい。(このことにより、confounding in measure と confounding in distribution という二つの観念の違いが明確になる。)
  2. Dr. Maldonadoの例では、曝露状況がどのように生じたのかに関する背景が説明されていない。(そのため、confounding “in expectation” と “realized” confounding という二つの観念の違いが明確にされていない。)
  3. Dr. Maldonadoが示しているDAGは、用いられている例を正しく描出していない。

本レターが、因果概念のさらなる理解に寄与することを期待しています。

Suzuki E, Mitsuhashi T, Tsuda T, Yamamoto E.
A simple example as a pedagogical device?
Ann Epidemiol. 2014;24(7):560-561.
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レターの対象となった論文
Maldonado G.
Toward a clearer understanding of causal concepts in epidemiology.
Ann Epidemiol. 2013;23(12):743-749.
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2014/4/29

看護職員の地理的分布の推移に関する論文出版のお知らせ

わが国における看護職員の地理的分布の推移について検討した論文が Acta Medica Okayama に出版されました。

近年、医療政策上の課題として医師をはじめとする医療人材の全国的な分布や偏在が挙げられています。医師や歯科医師等についてはいくつかの研究報告がなされていますが、看護職員の分布や偏在について系統的に行われた研究は認められていません。

本研究では2000年から2010年の間における看護職員の地理的な分布の傾向を評価し、その間に施行された医療政策や社会問題などがどのように分布に影響するのかについて考察しました。各都道府県の保健統計より二次医療圏単位での看護職員の分布を算出し、ジニ係数を用いて偏在について評価しました。また、経時的な分布の推移を評価するためマルチレベル分析を行いました。結果として、看護職員数の増加と比較すると偏在の改善は顕著に認められず、医療政策や社会問題が看護職員の分布に影響を及ぼす可能性が示唆されました。また、人口密度を調整した上でも都道府県庁所在地を含む二次医療圏に有意に看護職員が集まる傾向が示唆されました。

さらなる詳細な検討が望まれるものの、本知見は、均等な看護職員の分布を実現するためには何らかの介入が必要であることを示唆していると解釈されます。

Izutsu M, Suzuki E, Izutsu Y, Doi H.
Trends in geographic distribution of nursing staff in Japan from 2000 to 2010: a multilevel analysis.
Acta Med Okayama. 2014:68(2):101-110.
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2014/4/29

大気汚染曝露と循環器疾患による救急搬送の関連に関する論文出版のお知らせ

大気汚染曝露と循環器疾患による救急搬送の関連を検討した論文が Stroke に出版されました。

最近、大気汚染物質曝露の健康影響が懸念されており、国内でも大気汚染物質への急性曝露と疾病別死亡の関連は評価が行われ、関連が指摘されてきています。しかしながら、疾病罹患との関連を検討した研究はいまだ少なく、さらに、大気汚染物質曝露と疾病罹患との関連の検討を行う際に、日単位の解析ではなく、時間単位の解析を行っている研究は国外でも数が限られています。本研究では、岡山市の救急搬送データを利用し、大気汚染物質急性曝露と循環器疾患、特に脳血管疾患との関連を検討しました。結果として、オキシダント以外、0-6時間前の大気汚染物質曝露が循環器疾患による救急搬送と正に関連していました。具体的には、0-6時間前の浮遊粒子状物質が20.6 μg/m3上昇することによる調整オッズ比は、1.04(95%信頼区間:1.01-1.06)でした。これら正の関連は、脳血管疾患、特に出血性脳疾患でも観察されました。大気汚染は、曝露後すぐに循環器疾患や脳血管疾患による救急搬送のリスクを上昇させると考えられます。

Takashi Yorifuji, Etsuji Suzuki, Saori Kashima.
Cardiovascular Emergency Hospital Visits and Hourly Changes in Air Pollution.
Stroke. 2014;45(5):1264-1268. doi: 10.1161/​STROKEAHA.114.005227
本論文へのリンク (PubMed)
PDFはこちらより入手できます


2014/4/3

訪問診療患者の在宅死成立因子に関する論文出版のお知らせ

訪問診療患者の在宅死成立因子を検証した論文がGeriatrics Gerontology Internationalに出版されました。

わが国では在宅医療を行う診療所が増加する一方で、在宅死は増加していない状況にあります。この状況を踏まえ、一在宅療養支援診療所の訪問診療患者データを用いて後ろ向きコホート研究を行い、ADL低下と在宅死の関連を検討しました。対象患者をADL高度低下の有無で二群に分け、コックスの比例ハザードモデルを用いて、高度ADL低下による在宅死発生ハザード比を求めました。その結果、高度ADL低下の在宅死発生に対する調整ハザード比は4.41 (95% CI: 2.37-8.16) と、統計学的に有意に高い結果を示しました。がんの有無で層別したサブグループ解析を行ったところ、がん有のサブグループでは5.64 (95% CI: 2.47-12.91)、がん無のサブグループでは11.96 (95% CI: 3.39-42.15) という結果になりました。がんがある患者に比して、がんがない患者においてADL高度低下と在宅死の関連が強いことから、訪問診療により、末期がんだけではなく、非がん寝たきり患者の増加の可能性が示唆されました。

Seiji Kawagoe, Toshihide Tsuda, and Hiroyuki Doi
Study on the factors determining home death of patients during home care: A historical cohort study at a home care support clinic
Geriatrics Gerontology International 2013;13:874-880.

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2014/3/8

自殺の地域間格差拡大に及ぼす地域の経済状況の影響に関する論文出版のお知らせ

自殺対策は、多くの国における公衆衛生分野の重要な課題の一つとなっています。我々の研究グループは最近、日本の自殺格差が社会的または地理的にどのような変遷を辿っているのかに関して評価を行い、この30年の間に、男性において格差が著しく拡大していることを明らかにしました(Suzuki et al., 2013, PLoS One)。この成果を踏まえ、拡大する地域間自殺格差の背景として、地域の社会経済的特性が個人の特性を超えて影響を及ぼしているのか、また影響しているとすれば、近年の地域間格差拡大に伴って影響の程度が強くなっているのかに関して、経年的に検証した論文が European Journal of Public Health に出版されました。本研究は、ハーバード大学、広島大学の研究者らとの共同研究です。

本研究では、25歳から64歳の全人口を対象として、1975年から2010年の35年間にわたる各都道府県における自殺リスクの変遷を評価すると同時に、各都道府県の経済状況(平均収入、平均貯蓄高、平均収入のジニ係数)の変遷を評価することにより、自殺の地域間格差拡大に及ぼす地域の経済状況の影響を検証しました。結果として、男性において、地域の平均貯蓄高や平均収入が低い場合に自殺リスクが高まること、特に近年ではその傾向が強まっていることが示されました。一方でジニ係数に関しては、日本の先行研究結果とは異なり、男女とも自殺リスクとの明確な関連は認められませんでした。

本研究結果は、男性における自殺の要因について、文脈的要素の重要性が高まっていることを示唆しています。

Suzuki E, Kashima S, Kawachi I, Subramanian SV.
Prefecture-level economic conditions and risk of suicide in Japan: a repeated cross-sectional analysis 1975–2010.
Eur J Public Health. 2014; doi:10.1093/eurpub/cku023

本論文へのリンク(Oxford Journals site)
本論文のPDFへのリンク(Oxford Journals site)



2014/2/19

母乳育児と子どもの行動発達に関する論文掲載のお知らせ

母乳育児がその後の子どもの認知機能の発達に好影響を与えるということは指摘され
ていますが,行動発達とどのように関連するのかは明確な結論が出ていません。そこ
で,私たちは,日本の大規模な調査データを用いて,乳児期の母乳育児が2歳半およ
び5歳半時点での行動発達とどのように関連しているかを検討しました。その結果,
乳児期の母乳育児が行動発達に好影響を与えていることが明らかになりました。

Takashi Yorifuji, Toshihide Kubo, Michiyo Yamakawa, Tsuguhiko Kato,
SachikoInoue, Akiko Tokinobu, Hiroyuki Doi.
Breastfeeding and Behavioral Development: A Nationwide Longitudinal Survey in Japan.
The Journal of Pediatrics (published online)

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2014/2/10

母乳育児と子どもの肥満に関する論文掲載のお知らせ

乳児期の母乳育児がその後の子どもの肥満を予防する可能性が示唆され,欧米諸国において,今まで多くの研究がなされてきましたが,未だ明確な結論が出ていません。そこで,私たちは,日本の大規模な調査データを用いて,乳児期の母乳育児が7歳時および8歳時の肥満状況にどのような影響を及ぼしているかを検討しました。その結果,生後6~7か月の時点で母乳育児のみで育った子どもは,粉ミルクだけで育った子どもに比べ,肥満になりにくいことが明らかになりました。

Michiyo Yamakawa, Takashi Yorifuji, Sachiko Inoue, Tsuguhiko Kato, Hiroyuki Doi.
Breastfeeding and obesity among schoolchildren: a nationwide longitudinal survey in Japan.
JAMA Pediatrics. Published online August 12, 2013.

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2014/2/7

ポリ塩化ビフェニルとポリ塩化ジベンゾフランの混合物に汚染した米ぬか油の曝露による死産率と二次的性比の地域的検討に関する論文掲載のお知らせ

1968年に発生した、カネミ油症はPCBとPCDFの混合汚染として知られていますが、そのカネミ油症における周産期指標に関する知見は限られています。今回、深刻な被害があった2地域を対象に、PCBとPCDFの混合物曝露による死産率と二次性比(出生時の性比)の影響を評価致しました。結果として、曝露を受けた地域では1968年以降死産率が上昇し、男児の出生が減っていました。実際、1968年以降15年間は、自然死産率が男性比の減少と一致していました(つまり、死産率が増加している時期に、男の子の出生が減っていました。)。PCBとPCDFの混合物の曝露により曝露後15年間、死産率と性比が影響を受けていたと考えられます。

Yorifuji T, Kashima S, Tokinobu A, Kato T, Tsuda T.
Regional impact of exposure to a polychlorinated biphenyl and polychlorinated dibenzofuran mixture from contaminated rice oil on stillbirth rate and secondary sex ratio. Environ Int. 2013 Jun 1; 59 :12-15.

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2014/2/7

大きな道路近傍への居住と出生時アウトカムに関する論文掲載のお知らせ

大気汚染曝露が早産や低出生体重児のリスクを上昇させると考えられています。今回は、そのような状況の中、どのような社会経済的状況や属性を持った両親の場合、大気汚染の影響が強くなるのかを検討いたしました。結果として、大きな道路近傍の居住者の方が早産や低出生体重児の出生が多くなっていました。また、社会経済的状況、母親の糖尿病既往、高血圧既往、喫煙習慣が大気汚染の影響が強くなることに寄与していました。

Yorifuji T, Naruse H, Kashima S, Takao S, Murakoshi T, Doi H, Kawachi I.
Residential proximity to major roads and adverse birth outcomes: a hospital-based study. Environ Health. 2013 Apr 18;12(1):34.

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2014/2/7

水俣病1977年診断基準の批判的吟味に関する論文掲載のお知らせ

大規模なメチル水銀中毒による食中毒が水俣で発生したことはよく知られています。患者として認定する為の、認定制度とその診断基準が現在も利用されていますが、その診断基準の妥当性に関して評価した研究は少ないので検討を行いました。1971年の悉皆調査の結果を利用して検証した所、公式に認定された患者を除いてみても、曝露地域の多くの住民が神経学的所見を呈していました。また、診断のゴールドスタンダードとして四肢の感覚障害を利用した所、診断基準の感度は66%でした。よって、公式の認定制度や現在の診断基準は水俣病の発生を過小評価していると言えます。

Yorifuji T, Tsuda T, Inoue S, Takao S, Harada M, Kawachi I.
Critical appraisal of the 1977 diagnostic criteria for Minamata disease. Arch Environ Occup Health. 2013;68(1):22-9.

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