研究業績

2014/10/9

大気汚染曝露と心停止による救急搬送の関連に関する論文出版のお知らせ

最近、大気汚染物質曝露の健康影響が懸念されており、国内でも大気汚染物質への急性曝露と疾病別死亡の関連は評価が行われ、関連が指摘されてきています。しかしながら、疾病罹患との関連を検討した研究、特に心停止との関連を検討した研究は海外でも少なく、さらに大気汚染物質曝露と疾病罹患との関連の検討を行う際に、日単位の解析ではなく、毎時変動の影響を検証し考えられる有害作用を実証した疫学研究はごくわずかです。

本研究では岡山市の救急搬送データを利用し、症例発生前の異なる4期間(0-24時間、24-48時間、48-72時間、72-96時間)の大気汚染濃度を平均し、その影響の評価を行いました。結果として、濃度がIQR(四分位範囲)分増加する時のオッズ比は、発症から48–72時間前の浮遊粒子状物質曝露で1.17 (95% CI: 1.02–1.33)、72–96時間前のオゾンで1.40 (95% CI: 1.02–1.92)、24–48時間前の二酸化窒素曝露で1.24 (95% CI: 1.01–1.53)、48–72時間前の二酸化硫黄曝露で1.16 (95% CI: 1.00–1.34)となっており、浮遊粒子状物質、オゾン、二酸化窒素、二酸化硫黄の曝露が心停止のリスク上昇と関連していました。

Yorifuji T, Suzuki E, Kashima S.
Outdoor air pollution and out-of-hospital cardiac arrest in Okayama, Japan.
Journal of Occupational and Environmental Medicine. 2014;56(10):1019-1023.
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2014/10/9

大気汚染曝露と呼吸器疾患による救急搬送の関連に関する論文出版のお知らせ

2006年にWHOより出版されたWHO Air Quality Guideline Global Updateによると、短期曝露、慢性曝露共に呼吸器・心血管系の死亡の増加、呼吸器・心血管系疾患の罹患の増加、生理的機能への影響を引き起こすとされています。しかしながら、疾病罹患との関連を検討した研究は国内では少なく、また大気汚染の曝露と呼吸疾患の関連が時間単位でどうなっているかの検証は、ほとんどなされていません。

今回の研究においては、大気汚染の短期影響に着目し、大気汚染と呼吸器疾患発症との関連評価を行いました。本研究では岡山市の救急搬送データを利用し、症例発生前の異なる期間の大気汚染濃度を平均し、その影響の評価を行いました。結果として、発症の24-72時間前の浮遊粒子状物質曝露、発症の48-96時間前のオゾン曝露が呼吸器疾患の発症と関連していました。濃度がIQR(四分位範囲)分増加する時のオッズ比は、浮遊粒子状物質24-48時間前に関しては1.05 (95% CI: 1.01, 1.09)、オゾン72-96時間前に関しては1.13 (95% CI: 1.04, 1.23) でした。肺炎とインフルエンザに関しては0-24時間前の二酸化硫黄曝露が関連しており、オッズ比は1.07 (95% CI: 1.00, 1.14) でした。一方、慢性閉塞性肺疾患に関しては、結果ははっきりしませんでした。

Yorifuji T, Suzuki E, Kashima S.
Hourly differences in air pollution and risk of respiratory disease in the elderly: a time-stratified case-crossover study.
Environmental Health. 2014;13:67. (doi: 10.1186/1476-069X-13-67)
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2014/6/5

交絡の異なる観念を明らかにすることの重要性を指摘したレター出版のお知らせ

Epidemiology 2014年1月号で、米国コロンビア大学のDr. Gattoらが、疫学における因果効果に関する組織的なスキーマを提唱する総説論文を出版しました。この度、その論文に対するレターが Epidemiology に出版されました。

これまであまり認識されていない点ですが、交絡 (confounding) には、confounding in measure と confounding in distribution という二つの異なる観念があります。前者の観念では交絡の有無は指標に依存する一方で、後者の観念では交絡の有無は指標に依存しません。どちらの観念が用いられているかによって、交絡が存在しないことの十分条件も異なることになります。本レターでは、これらの観念の違いを明確に理解することにより、因果効果に関する組織的なスキーマを精錬できることを論じています。

本レターが、因果概念のさらなる理解に寄与することを期待しています。

Suzuki E, Yamamoto E.
Further refinements to the organizational schema for causal effects.
Epidemiology. 2014;25(4):618-619.
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レターの対象となった総説論文
Gatto NM, Campbell UB, Schwartz S.
An organizational schema for epidemiologic causal effects.
Epidemiology. 2014;25(1):88-97.
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著者らの回答
Gatto NM, Campbell UB, Schwartz S.
The authors respond:
Epidemiology. 2014;25(4):619-620.
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2014/6/18

交絡などの因果概念を効果的に教えるための例に関するレター出版のお知らせ

Annals of Epidemiology 2013年12月号で、ミネソタ大学のDr. Maldonadoが、疫学における因果概念に関する教育的論文を出版しました。その論文では、4つのライトを用いたシンプルな例により、交絡 (confounding) などの因果概念を説明することが提唱されています。この度、その論文に対するレターが Annals of Epidemiology に出版されました。

Dr. Maldonadoが用いた例はシンプルではあるものの、交絡の概念や directed acyclic graph (DAG) の活用方法に関する混乱や誤解を生じさせることが懸念されます。本レターではその点を、以下の三つの観点から論じています。

  1. 交絡の概念を効果的に教えるためには、全集団をターゲットとした場合の因果効果を論じることが望ましい。(このことにより、confounding in measure と confounding in distribution という二つの観念の違いが明確になる。)
  2. Dr. Maldonadoの例では、曝露状況がどのように生じたのかに関する背景が説明されていない。(そのため、confounding “in expectation” と “realized” confounding という二つの観念の違いが明確にされていない。)
  3. Dr. Maldonadoが示しているDAGは、用いられている例を正しく描出していない。

本レターが、因果概念のさらなる理解に寄与することを期待しています。

Suzuki E, Mitsuhashi T, Tsuda T, Yamamoto E.
A simple example as a pedagogical device?
Ann Epidemiol. 2014;24(7):560-561.
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レターの対象となった論文
Maldonado G.
Toward a clearer understanding of causal concepts in epidemiology.
Ann Epidemiol. 2013;23(12):743-749.
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2014/4/29

看護職員の地理的分布の推移に関する論文出版のお知らせ

わが国における看護職員の地理的分布の推移について検討した論文が Acta Medica Okayama に出版されました。

近年、医療政策上の課題として医師をはじめとする医療人材の全国的な分布や偏在が挙げられています。医師や歯科医師等についてはいくつかの研究報告がなされていますが、看護職員の分布や偏在について系統的に行われた研究は認められていません。

本研究では2000年から2010年の間における看護職員の地理的な分布の傾向を評価し、その間に施行された医療政策や社会問題などがどのように分布に影響するのかについて考察しました。各都道府県の保健統計より二次医療圏単位での看護職員の分布を算出し、ジニ係数を用いて偏在について評価しました。また、経時的な分布の推移を評価するためマルチレベル分析を行いました。結果として、看護職員数の増加と比較すると偏在の改善は顕著に認められず、医療政策や社会問題が看護職員の分布に影響を及ぼす可能性が示唆されました。また、人口密度を調整した上でも都道府県庁所在地を含む二次医療圏に有意に看護職員が集まる傾向が示唆されました。

さらなる詳細な検討が望まれるものの、本知見は、均等な看護職員の分布を実現するためには何らかの介入が必要であることを示唆していると解釈されます。

Izutsu M, Suzuki E, Izutsu Y, Doi H.
Trends in geographic distribution of nursing staff in Japan from 2000 to 2010: a multilevel analysis.
Acta Med Okayama. 2014:68(2):101-110.
本論文へのリンク


2014/4/29

大気汚染曝露と循環器疾患による救急搬送の関連に関する論文出版のお知らせ

大気汚染曝露と循環器疾患による救急搬送の関連を検討した論文が Stroke に出版されました。

最近、大気汚染物質曝露の健康影響が懸念されており、国内でも大気汚染物質への急性曝露と疾病別死亡の関連は評価が行われ、関連が指摘されてきています。しかしながら、疾病罹患との関連を検討した研究はいまだ少なく、さらに、大気汚染物質曝露と疾病罹患との関連の検討を行う際に、日単位の解析ではなく、時間単位の解析を行っている研究は国外でも数が限られています。本研究では、岡山市の救急搬送データを利用し、大気汚染物質急性曝露と循環器疾患、特に脳血管疾患との関連を検討しました。結果として、オキシダント以外、0-6時間前の大気汚染物質曝露が循環器疾患による救急搬送と正に関連していました。具体的には、0-6時間前の浮遊粒子状物質が20.6 μg/m3上昇することによる調整オッズ比は、1.04(95%信頼区間:1.01-1.06)でした。これら正の関連は、脳血管疾患、特に出血性脳疾患でも観察されました。大気汚染は、曝露後すぐに循環器疾患や脳血管疾患による救急搬送のリスクを上昇させると考えられます。

Takashi Yorifuji, Etsuji Suzuki, Saori Kashima.
Cardiovascular Emergency Hospital Visits and Hourly Changes in Air Pollution.
Stroke. 2014;45(5):1264-1268. doi: 10.1161/​STROKEAHA.114.005227
本論文へのリンク (PubMed)
PDFはこちらより入手できます


2014/4/3

訪問診療患者の在宅死成立因子に関する論文出版のお知らせ

訪問診療患者の在宅死成立因子を検証した論文がGeriatrics Gerontology Internationalに出版されました。

わが国では在宅医療を行う診療所が増加する一方で、在宅死は増加していない状況にあります。この状況を踏まえ、一在宅療養支援診療所の訪問診療患者データを用いて後ろ向きコホート研究を行い、ADL低下と在宅死の関連を検討しました。対象患者をADL高度低下の有無で二群に分け、コックスの比例ハザードモデルを用いて、高度ADL低下による在宅死発生ハザード比を求めました。その結果、高度ADL低下の在宅死発生に対する調整ハザード比は4.41 (95% CI: 2.37-8.16) と、統計学的に有意に高い結果を示しました。がんの有無で層別したサブグループ解析を行ったところ、がん有のサブグループでは5.64 (95% CI: 2.47-12.91)、がん無のサブグループでは11.96 (95% CI: 3.39-42.15) という結果になりました。がんがある患者に比して、がんがない患者においてADL高度低下と在宅死の関連が強いことから、訪問診療により、末期がんだけではなく、非がん寝たきり患者の増加の可能性が示唆されました。

Seiji Kawagoe, Toshihide Tsuda, and Hiroyuki Doi
Study on the factors determining home death of patients during home care: A historical cohort study at a home care support clinic
Geriatrics Gerontology International 2013;13:874-880.

本論文へのリンク


2014/3/8

自殺の地域間格差拡大に及ぼす地域の経済状況の影響に関する論文出版のお知らせ

自殺対策は、多くの国における公衆衛生分野の重要な課題の一つとなっています。我々の研究グループは最近、日本の自殺格差が社会的または地理的にどのような変遷を辿っているのかに関して評価を行い、この30年の間に、男性において格差が著しく拡大していることを明らかにしました(Suzuki et al., 2013, PLoS One)。この成果を踏まえ、拡大する地域間自殺格差の背景として、地域の社会経済的特性が個人の特性を超えて影響を及ぼしているのか、また影響しているとすれば、近年の地域間格差拡大に伴って影響の程度が強くなっているのかに関して、経年的に検証した論文が European Journal of Public Health に出版されました。本研究は、ハーバード大学、広島大学の研究者らとの共同研究です。

本研究では、25歳から64歳の全人口を対象として、1975年から2010年の35年間にわたる各都道府県における自殺リスクの変遷を評価すると同時に、各都道府県の経済状況(平均収入、平均貯蓄高、平均収入のジニ係数)の変遷を評価することにより、自殺の地域間格差拡大に及ぼす地域の経済状況の影響を検証しました。結果として、男性において、地域の平均貯蓄高や平均収入が低い場合に自殺リスクが高まること、特に近年ではその傾向が強まっていることが示されました。一方でジニ係数に関しては、日本の先行研究結果とは異なり、男女とも自殺リスクとの明確な関連は認められませんでした。

本研究結果は、男性における自殺の要因について、文脈的要素の重要性が高まっていることを示唆しています。

Suzuki E, Kashima S, Kawachi I, Subramanian SV.
Prefecture-level economic conditions and risk of suicide in Japan: a repeated cross-sectional analysis 1975–2010.
Eur J Public Health. 2014; doi:10.1093/eurpub/cku023

本論文へのリンク(Oxford Journals site)
本論文のPDFへのリンク(Oxford Journals site)



2014/2/19

母乳育児と子どもの行動発達に関する論文掲載のお知らせ

母乳育児がその後の子どもの認知機能の発達に好影響を与えるということは指摘され
ていますが,行動発達とどのように関連するのかは明確な結論が出ていません。そこ
で,私たちは,日本の大規模な調査データを用いて,乳児期の母乳育児が2歳半およ
び5歳半時点での行動発達とどのように関連しているかを検討しました。その結果,
乳児期の母乳育児が行動発達に好影響を与えていることが明らかになりました。

Takashi Yorifuji, Toshihide Kubo, Michiyo Yamakawa, Tsuguhiko Kato,
SachikoInoue, Akiko Tokinobu, Hiroyuki Doi.
Breastfeeding and Behavioral Development: A Nationwide Longitudinal Survey in Japan.
The Journal of Pediatrics (published online)

本論文へのリンク

2014/2/10

母乳育児と子どもの肥満に関する論文掲載のお知らせ

乳児期の母乳育児がその後の子どもの肥満を予防する可能性が示唆され,欧米諸国において,今まで多くの研究がなされてきましたが,未だ明確な結論が出ていません。そこで,私たちは,日本の大規模な調査データを用いて,乳児期の母乳育児が7歳時および8歳時の肥満状況にどのような影響を及ぼしているかを検討しました。その結果,生後6~7か月の時点で母乳育児のみで育った子どもは,粉ミルクだけで育った子どもに比べ,肥満になりにくいことが明らかになりました。

Michiyo Yamakawa, Takashi Yorifuji, Sachiko Inoue, Tsuguhiko Kato, Hiroyuki Doi.
Breastfeeding and obesity among schoolchildren: a nationwide longitudinal survey in Japan.
JAMA Pediatrics. Published online August 12, 2013.

本論文へのリンク


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