研究業績

2015/6/10

クロアチアの高校生におけるソーシャル・キャピタルと健康に関する論文出版のお知らせ

近年、ソーシャル・キャピタル(人とのつながりにより得られる社会関係資本)と健康の関係を明らかにする研究が注目を集めています。しかし、これまでの研究の多くは成人を対象としており、青年期におけるエビデンスは十分に得られていません。この度、クロアチアの首都ザグレブに住む高校生3,427人を対象にした大規模疫学調査の研究結果がBMJ Openに出版されました。

本研究では、ザグレブにある高校の中から20の高校を無作為抽出し、17歳から18歳の高校生を対象として、家族、近隣、学校の三つの社会的文脈におけるソーシャル・キャピタルを質問紙調査で評価しました。そして、それらが高校生の主観的健康とどのような関連があるかを、一般化推定方程式 (generalized estimating equation: GEE) を用いて検証しました。その結果、家族におけるソーシャル・キャピタル、近隣における信頼、学校における互酬性が、高校生の健康に良い影響を及ぼしていることが示唆されました。

本成果が、今後のソーシャル・キャピタル研究の一助になることが期待されます。

Novak D, Suzuki E, Kawachi I.
Are family, neighbourhood and school social capital associated with higher self-rated health among Croatian high school students? A population-based study.
BMJ Open. 2015;5(6):e007184. (doi:10.1136/bmjopen-2014-007184)
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2015/5/11

因果指標の一般性・普遍性を論じたコメンタリー出版のお知らせ

因果推論において、因果指標を明確に定義することは欠かせません。この度、因果指標の全体像を俯瞰し、その一般性や普遍性を論じたコメンタリーがEpidemiologyに出版されました。

コメンタリーの対象となった論文で、米国エモリー大学のDr. FlandersとDr. Kleinは、従来の因果指標の定義を多変量に拡張することを提唱し、その一般的な定義を与えました。本コメンタリーは、彼らが提唱した定義の意義を明確にするため、例として、コホート研究ではよく知られているtruncation by deathの状況下で因果指標をどのように定義できるかを論じました。そして、因果指標の定義を一般化するためには、ターゲット集団を明確にすることが重要である点を指摘しています。加えて、truncation by deathの状況をDAGs(directed acyclic graphs)でどのように視覚的に表すべきかについて、potential outcomeモデルとの対応を明確にして論じるとともに、最近我々が提唱したextended DAGsへの応用も示しました。なお、本コメンタリーに対して、Dr. FlandersとDr. Kleinからのrejoinderもあわせて出版されています。

一連の論文が、因果指標のさらなる理解に寄与することを期待しています。

Suzuki E.
Generalized causal measure: the beauty lies in its generality.
Epidemiology. 2015: (In press). doi: 10.1097/EDE.0000000000000304
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コメンタリーの対象となった論文
Flanders WD, Klein M.
A general, multivariate definition of causal effects in epidemiology.
Epidemiology. 2015: (In press).
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著者からのrejoinder
Flanders WD, Klein M.
The author responds.
Epidemiology. 2015: (In press)
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2015/2/13

母乳育児と子どもの呼吸器感染や下痢による入院との関連に関する論文掲載のお知らせ

離乳食への移行期あるいは移行後でも、母乳育児の予防的な影響が残るかどうかに
ついては、十分に明らかになっていません。そこで、私たちは日本の大規模な調査
データを用いて、母乳育児が子どもの呼吸器感染や下痢による入院とどのように
関連しているかを検討しました。その結果、母乳育児は呼吸器感染による入院には
予防的な影響が見られましたが、下痢に対しての影響ははっきりとしませんでした。

Michiyo Yamakawa, Takashi Yorifuji, Tsuguhiko Kato, Sachiko Inoue, Akiko Tokinobu, Toshihide Tsuda, Hiroyuki Doi.
Long-term effects of breastfeeding on children’s hospitalization for respiratory tract infections and diarrhea in early childhood in Japan. Maternal and Child Health Journal (in press).
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2014/12/26

高齢者における、黄砂と救急搬送の関連に関する論文出版のお知らせ

近年、日本に飛来する黄砂の観測日は増加しており、その健康影響が懸念されています。また、人為的な発生源(車など)からの大気汚染による健康影響を、これら黄砂が増加させる(効果修飾)可能性もまた示唆されています。

本研究では、岡山市の救急搬送データを利用して、黄砂の健康(全疾患、循環器系と呼吸器系疾患発症)への直接的影響と効果修飾的影響の2つの側面を検討しました。結果として、黄砂と救急搬送の関係は、交通由来の大気汚染物質(浮遊粒子状物質)と独立して観測されました。黄砂の四分位範囲の増加により、イベント日より3日後で、全疾患の相対危険度が1.012 (95% CI: 1.004, 1.021)、循環器疾患が1.021 (95% CI: 1.002, 1.039)、呼吸器系疾患が1.026 (95% CI: 1.003, 1.050) でした。また、黄砂が多い日では、浮遊粒子状物質の増加による救急搬送の相対危険度は、循環器系疾患が1.299 (95% CI: 1.071, 1.576) でしたが、このリスクの増加は、黄砂がない日では観測されませんでした。

このように、黄砂は、全疾患、循環器系疾患、呼吸器系の疾患発生に影響をもたらし、浮遊粒子状物質の循環器系疾患への影響を効果修飾することが示唆されました。

Kashima S, Yorifuji T, Suzuki E.
Asian dust and daily emergency ambulance calls among elderly people in Japan: an analysis of its double role as a direct cause and as an effect modifier.
Journal of Occupational and Environmental Medicine. 2014;56(12):1277-83.
本論文へのリンク (PubMed)


2014/12/26

睡眠時無呼吸に対するASV治療に関する症例報告出版のお知らせ

これまで、心不全に伴う睡眠時無呼吸に対するASV治療に関する知見は、中高年の入院患者を対象としたものであり、限定的なものでした。本研究では、ASV治療の有用性をさらに幅広く検証するため、在宅医療現場における後期高齢者を対象として、心不全に伴う睡眠時無呼吸の診断からASVの導入とその治療に対する評価を行いました。その結果、ASV治療は在宅医療現場における後期高齢者に対しても有効に使えることが示唆されました。

山崎賢士,藤井基弘,藤井弥子,津田敏秀,鈴木越治.
在宅医療現場における心不全に伴う睡眠時無呼吸に対するASV治療.
[ASV treatment for sleep-disordered breathing with heart failure: an application in a home care setting].
日本プライマリ・ケア連合学会誌. 2014;37(4):342-345.
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2014/12/27

母乳育児と子どもの喘息入院との関連に関する論文掲載のお知らせ

母乳育児が長期的に子どもの健康に好影響をもたらすことが明らかになってきましたが、喘息に対しては未だ明確な結論が出ていません。そこで、私たちは日本の大規模な調査データを用いて、母乳育児が長期的に子どもの喘息入院とどのように関連しているかを検討しました。その結果、母乳育児が、生後6か月から42か月(3歳6か月)の子どもの喘息入院に予防的な影響をもたらしていることが確認されました。

Michiyo Yamakawa, Takashi Yorifuji, Tsuguhiko Kato, Yoshitada Yamauchi, Hiroyuki Doi.
Breast-feeding and hospitalization for asthma in early childhood: a nationwide longitudinal survey in Japan.
Public Health Nutr. 2014 Nov 6:1-6. [Epub ahead of print]

本論文へのリンク (PubMed)


2014/12/27

大気汚染曝露と満期低出生体重児の関連に関する論文掲載のお知らせ

大気汚染曝露と様々な出生児のアウトカム(低出生体重児、早産など)に関する知見は集積されてきていますが、今までの研究はある地域に限局されたものや大事な交絡要因を調整できていないものが多くあります。そこで、私たちは、日本の大規模な調査データを用いて、妊娠中の大気汚染曝露と満期で産まれた児の低出生体重児との関連を検討しました。その結果、大気汚染曝露が満期の低出生体重児を増加させていました。

Takashi Yorifuji, Saori Kashima, Hiroyuki Doi
Outdoor Air Pollution and Term Low Birth Weight in Japan
Environment International 2015;74:106-111

本論文へのリンク (PubMed)

2014/12/27

大きな道路近傍への居住と出生時アウトカムに関する論文掲載のお知らせ

大気汚染曝露が早産や低出生体重児のリスクを上昇させると考えられています。今回は、そのような状況の中、大きな道路近傍への居住と妊娠経過中の母体合併症との関連を検討いたしました。結果として、大きな道路近傍の居住者の方が妊娠高血圧症候群や37週以前の前期破水が多くなっていました。母体自身への影響だけでなく、大気汚染曝露と早産の関連のメカニズムの一部を説明していると考えられます。

Takashi Yorifuji, Hiroo Naruse, Saori Kashima, Takeshi Murakoshi, Hiroyuki Doi.
Residential Proximity to Major Roads and Obstetrical Complications
Science of the Total Environment 2015;508:188-192

本論文へのリンク (PubMed)





2014/11/29

Epistasis(遺伝子相互作用)に関する書籍出版のお知らせ

異なる遺伝子座間の相互作用が一つの形質に影響することがあります。このことに関連して、1909年に、遺伝学者の Dr. William Bateson は、ある遺伝子座の遺伝子型によって別の遺伝子座の遺伝子型の発現が抑えられる現象のことを、エピスタシス (epistasis) と呼びました。その後、エピスタシスという用語は、より広範な意味で用いられるようになり、一般に、遺伝子相互作用を指す用語として認知されています。

この度、Springer の Methods in Molecular Biology シリーズから、エピスタシスに関する最新の知見をまとめた書籍「Epistasis: Methods and Protocols」が出版されました。その第11章「Compositional Epistasis: An Epidemiologic Perspective」では、疫学理論の観点からエピスタシスを論じています。特に、反事実モデル (counterfactual model) の観点からエピスタシスを同定する十分条件などについて論じています。

疫学的な視点が、遺伝子・分子・細胞などのミクロのレベルにおけるメカニズムを明らかにするうえで有用であることを示す上で、本文献が役立つことも期待されます。

Suzuki E, VanderWeele TJ.
Compositional epistasis: an epidemiologic perspective.
In: Moore JH, Williams SM, eds. Epistasis: Methods and Protocols, Methods in Molecular Biology, vol. 1253, DOI: 10.1007/978-1-4939-2155-3_11, New York, NY: Springer, 2015: 197-216.
本文献へのリンク



2014/11/29

因果律に関する発表(@京都国際統計会議)について

2014年11月17日から18日に国立京都国際会館で開催された京都国際統計会議 (Kyoto International Conference on Modern Statistics in the 21st Century) の Invited Session: Causality で、因果律に関する発表を行いました。

Suzuki E, Tsuda T, Yamamoto E.
Sufficient-cause model and potential-outcome model.

因果律の主要なモデルである十分原因モデルと潜在アウトカムモデルの紹介を行い、これら二つのモデルの関連性について発表を行いました。主に、以下の論文の内容について焦点を当てた発表でした。

Suzuki E, Yamamoto E, Tsuda T. On the relations between excess fraction, attributable fraction, and etiologic fraction. Am J Epidemiol. 2012;175(6):567-575.

会議開催のためにご尽力いただいた関係者の方々、および、議論に参加していただいた皆様に深く御礼申し上げます。


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